井上正春

井上正春：激動の時代を駆け抜けた大名

井上正春は、江戸時代後期に活躍した大名であり、老中としても幕府政治に参与しました。陸奥棚倉藩、上野館林藩、遠江浜松藩と、生涯で三度も藩主の地位を異動するという、激動の人生を送りました。

生い立ちと棚倉藩主時代

文化3年（1805年）、浜松藩主・井上正甫の長男として生まれた正春ですが、父・正甫の不祥事が原因で、井上家は文化14年（1817年）に陸奥棚倉藩へ懲罰的な移封を命じられます。この時、浜松には水野忠邦が入り、後に幕閣で重きをなすことになります。文政3年（1820年）に家督を相続した正春は、幕府において奏者番、寺社奉行、大坂城代といった要職を歴任し、着実に実績を重ねました。

上野館林藩への転封と老中就任

天保7年（1836年）、仙石騒動や竹島事件の責任を問われ、老中であった松平康任が失脚します。これに伴い、正春は棚倉藩から上野館林藩へ転封となります。さらに天保11年（1840年）には西の丸老中に任じられますが、天保13年（1843年）に辞任しました。

浜松藩への復帰

弘化2年（1845年）、天保の改革を主導した水野忠邦が失脚し、減封と強制隠居を命じられます。この混乱の中、正春は上野館林藩から、父の代から28年ぶりに浜松藩へと復帰を果たしました。この転封の際、水野家が領民への借金を返済せずに山形へ移ろうとしたため、大規模な一揆が発生しますが、正春はこれを調停し、事態を収拾しました。

しかし、井上家の浜松復帰は、必ずしも手放しで喜べるものではありませんでした。館林からの転封は、治水工事や財政悪化の負担を領民に押し付けるものであり、農民の逃散を招いたとする説も存在します。

浜松藩主としての功績

浜松への復帰は、結果的に浜松に大きな発展をもたらしました。館林は当時、繊維流通の中心地であり、その機織技術が浜松に伝わったことで、遠州木綿は「笠井綿」として大きく発展しました。また、綿糸を利用した浜松織物の生産も拡大し、藩の経済を潤しました。さらに、藩校「克明館」を設立し、藩士の教育にも力を入れました。

死去と系譜

弘化4年（1847年）、正春は43歳で亡くなりました。

正室には阿部正精の娘、継室には松平忠学の養女（松平忠徳の娘）、継々室には秋田孝季の娘を迎えました。多くの子女に恵まれ、四男の井上正直、五男の最上義連、六男の井上正信などがいます。また、娘たちは水野忠精や松平忠恕、脇坂安斐、前田利平といった名家に嫁ぎました。

年表

1805年（文化3年）：誕生
1820年（文政3年）：陸奥棚倉藩襲封
1834年（天保5年）：奏者番兼寺社奉行
1836年（天保7年）：上野館林藩に転封
1838年（天保9年）：大坂城代
1840年（天保11年）：老中
1843年（天保13年）：老中辞任
1845年（弘化2年）：遠江浜松藩に転封
* 1847年（弘化4年）：死去


井上正春は、激動の時代を生き抜き、幾度もの転封を経験しながらも、それぞれの地でその役割を果たしました。特に浜松藩への復帰は、地域経済の発展に大きく貢献し、その功績は今も語り継がれています。

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