井上正鉄

井上正鉄（いのうえ まさかね）

井上正鉄は、寛政2年8月4日（1790年9月12日）に生まれ、嘉永2年2月18日（1849年3月12日）に没した、幕末の国学者であり神道家です。旧姓は安藤、上野国館林藩士の安藤眞鐡の子として、江戸の日本橋浜町で生まれました。後に母方の縁者の養子となり、井上姓を名乗るようになりました。

神道家としての歩み

1834年、正鉄は京都へ上り、白川伯王家に入門し、伯家神道を修めました。1836年には白川伯王家から神拝式許状を得、1838年には神職許状と天津祝詞太祝詞三種祓等の奥旨皆伝を受けました。これらの学びを通して、正鉄は神道家としての基盤を築きました。

1840年、江戸に戻った正鉄は、足立郡の梅田神明宮の神職となりました。そこで独自の神道を唱え始め、妻の安西男也や門弟の三浦隼人・智善夫妻とともに布教活動を展開しました。しかし、この活動が幕府の寺社奉行の目に留まり、1841年に邪教（新義異流）の嫌疑をかけられ、妻や門弟夫婦とともに投獄されてしまいます。

1843年、正鉄は三宅島へ流罪となり、その地で1849年に生涯を閉じました。しかし、彼の教えは途絶えることなく、1868年には白川伯王家から「禊祓霊社」の神号が贈られ、梅田神明宮内に「井上神社」が創建され、神として祀られるようになりました。

没後の影響

明治維新後、正鉄の思想は門人の坂田鉄安らによってまとめられ、正鉄を教祖とする教派神道「禊教」が立教されました。禊教は、正鉄の教えを基盤とし、人々の精神的な救済を目指す教えとして広まりました。

また、正鉄は天保の大飢饉の際、「我、一飯（いっぱん）を捧げて人々の飢えを救わん」と説き、積極的に救済活動を行ったと伝えられています。この活動は、現代の新宗教を中心に行われている「一食（いちじき）を捧げる運動」（立正佼成会）や「副食を献じる運動」（解脱会）の起源であるとも言われています。

人物像と逸話

正鉄は、独自の呼吸法によって大音声を出すことができたと伝えられています。また、流刑先の三宅島では釣りを楽しんでいたようで、釣りにまつわる歌をいくつか残しています。

轟ろ打つ波もこさじな大海の沖の小島に釣りをたれつつ
荒磯の沖の小島に釣りたれて神代のままの秋の夕暮れ

これらの歌からは、正鉄が自然を愛し、その中で静かに過ごすことを好んでいた様子が伺えます。

その他

教団関係者は、「井上正鐵」の表記を用いることが多いようです。これは、正鉄の教えを尊重し、その名をより神聖なものとして扱う意図があると考えられます。

参考文献
禊教経典研究所編『井上正鐵神御文書』禊教本院、1982

関連事項
水野南北
伯家神道
身曾岐神社
松平宗秀

外部リンク
梅田神明宮（公式サイト）

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