井上雅雄 (経済学者)

井上雅雄氏は、1945年生まれの日本の労働経済学者であり、立教大学名誉教授です。戦後日本の労働運動、とりわけ労働組合のあり方や、企業と労働者の関係性について鋭い分析と深い洞察を示した、重要な研究者でした。

氏の経歴は、演劇への情熱から始まります。北海道出身の井上氏は、1964年に上京し法政大学経済学部に入学。演出家を目指し、劇団人間座や劇団青俳に所属して演劇活動に打ち込みました。卒業後は高校教員を経験した後、1972年に立教大学大学院経済学研究科に進学。1974年に修士課程を修了し、東京大学大学院経済学研究科博士課程に進みました。隅谷三喜男教授の指導の下、研究を深めていきます。

1978年から1982年までは東京都立労働研究所の研究員として活躍。東大社会科学研究所の研究者らと協力し、労働争議の現場調査にも従事しました。この経験は、氏の研究に大きな影響を与えたことは間違いありません。この頃より、自主管理に取り組む労働組合の事例研究にも着手しています。

その後、佐賀大学、新潟大学を経て、1991年に立教大学経済学部教授に就任。1991年には『日本の労働者自主管理』を出版し、1992年には東京大学より博士（経済学）を取得しました。

1989年の総評解体、連合への移行という激動期には、『総評四十年史』の編纂に参加。戦後日本の労働戦線統一運動の変遷を研究し、その成果は『社会変容と労働』（1997年）に結実しました。

1990年代半ば以降は、東宝争議の研究に注力。長年の研究の成果として、2007年には『文化と闘争　東宝争議1946-1948』を刊行しました。この著作は、東宝争議を詳細に分析し、文化的な側面にも焦点を当てた画期的なものでした。

教育活動においても、井上氏は大きな足跡を残しました。立教大学では労働経済論などを担当したほか、2001年からは「仕事と人生」という全学共通科目を担当。これは日本の大学における先駆的なキャリア教育科目の試みでした。

井上雅雄氏の研究は、戦後日本の労働運動史に大きな貢献を果たしました。特に、東宝争議に関する研究は、その詳細さと分析の深さから高い評価を得ています。また、自主管理やキャリア教育への取り組みなど、多角的な視点から労働問題を考察したことも特筆すべき点です。2011年に立教大学を定年退職、2019年に逝去されましたが、氏の残した研究業績は、今後も日本の労働経済学の発展に貢献し続けることでしょう。

主な著書には、『日本の労働者自主管理』『社会変容と労働 「連合」の成立と大衆社会の成熟』『文化と闘争 東宝争議1946-1948』『講義 仕事と人生』『戦後日本映画史―企業経営史からたどる』などがあります。これらの著作は、戦後日本の労働運動や社会変容を理解する上で、極めて重要な文献となっています。

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