井伊直澄

井伊直澄

井伊直澄（いい なおすみ）は、江戸時代前期の譜代大名であり、近江彦根藩の第4代藩主。江戸幕府の大老（大政参与）を務めました。井伊直孝の五男として生まれ、官位は従四位下左少将、掃部頭。

生涯

寛永2年（1625年）、近江彦根藩主・井伊直孝の五男として誕生。幼名は亀之助。

父・直孝とその世子である直滋（直孝の長男）は不仲であり、万治元年（1658年）に直滋が廃嫡。次に世子となった直縄（直孝の四男）も同年に急死したため、万治2年（1659年）、五男である直澄が世子となり、父の死去によりその跡を継いで近江彦根藩主となりました。

寛文8年（1668年）11月19日、江戸幕府大老に就任。ただし、直澄を大老とするかどうかは諸説あります（大政参与の項参照）。

延宝4年（1676年）1月3日、死去。享年52。「子供が生まれても跡継ぎにしてはならない」との父の遺言を守り、正室を娶らず、兄・直縄の子で甥にあたる直興を養子として家督を継がせました。側室との間に子供はいましたが、家臣の分家に入って中野宣明と名乗りました。

人物

穏やかながら機知に富んだ性格であったと伝えられています。

ある日、徳川光圀の伴として徳川家綱の茶会に出席した際、家綱が茶を点てるのが不慣れで、光圀に飲みきれない量の茶を出してしまいました。光圀が困り果てたところ、直澄が進み出て「上様がお点てになったお茶を頂戴する機会は滅多にありません。もし飲み残しがございましたら、ぜひ私に頂けないでしょうか」と申し出たため、家綱も「余ればそのまま直澄へ」と言い、その場が収まったという逸話が残っています。

また、江戸で浪人が大名屋敷の門前で「切腹するから介錯しろ」と脅して金をねだる事例が多発した際、井伊家の門前にも浪人が現れました。直澄は平然と「したいと言うのなら切腹すれば良い」と答え、奥に招き入れ、食事をさせた後に切腹させたと言います。これにより、切腹騒動は鎮静化したとされています。このエピソードは、滝口康彦の短編小説「異聞浪人記」の元となり、それを原作として『切腹』と『一命』という2本の映画が作られました。

戦乱で荒廃していた青岸寺（滋賀県米原市）を慶安3年（1650年）に再興。また、父・直孝への恩義から、供養のため高さ8mほどの石造七重層塔を琵琶湖の多景島に建立しました。

大老在任中には、江戸の市中を騒がせた浄瑠璃坂の仇討が起きています。仇討ちを果たした一党は自害せずに幕府に出頭し、裁きを委ねました。徒党を組んでの仇討であったため、本来は厳罰必至の状況でしたが、大老であった直澄は死一等を免じて遠島流罪とし、数年後には恩赦を与えて仇討ちの面々を彦根家中に召し抱えました。この事件は赤穂事件と似た点が多々あり、赤穂浪士たちが事前に参考にしたとも言われています。

俳人の森川許六は直澄の家臣でした。

系譜

父：井伊直孝
母：春光院 石居氏
養父：井伊直惟
正室：井伊直存の娘
室：角氏
男子：中野宣明
生母不詳
男子：武藤本平

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