井伊直虎

井伊直虎の生涯

井伊直虎（いい なおとら）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて、遠江井伊谷を治めた領主である。彼女の存在を証明する同時代の史料は限られており、一通の書状が特に重要なものとされている。しかし、江戸時代中期に書かれた『井伊家伝記』によれば、井伊家の当主となった女性として井伊直盛の娘、次郎法師（じろうほうし）と同一視されることが通説として広まっている。

次郎法師は井伊直盛の娘で、母親は新野親矩の妹・祐椿尼である。彼女の生年については諸説あり、1536年頃に誕生したとされる。幼名などは記録に残っていないが、父に男子がいなかったため、直盛は従兄弟の井伊直親を婿養子に迎える考えがあったが、天文13年（1544年）の事件によって直親が家を離れることになった。同年、直親の父である直満が今川義元により自害させられ、直親本人も脱藩し武田領に逃れることとなる。このため、次郎法師は直親の命を守るために出家し、次郎法師と名乗るようになった。

直親はその後、弘治元年（1555年）に復帰し、養子として井伊家の後を継ぐが、直虎は婚期を逃してしまった。続く永禄3年（1560年）には直盛が桶狭間の戦いで戦死，直親も再び不幸に見舞われる。彼は永禄5年（1562年）に政治的陰謀により殺害され、直虎は再び一族の存続が危ぶまれる状況に置かれる。

その後の事件を経て、次郎法師は永禄8年（1565年）に家の当主として承認される。この際、彼女の地位は「女地頭」として認識され、井伊家の統治に必要な実権を持つようになった。具体的には、彼女名義で龍潭寺への寄進状や、祖父である直平の菩提を弔うための鐘の寄進を行っている。

永禄9年（1566年）には今川家からの徳政令が出されるが、この実施に関して井伊家は反発し、次郎法師はその指導者としての役割を果たした。直虎は家の財政を守るために、逆に農民たちに負債処理を促す立場を取っていた。

しかし、彼女は小野道好の専横により居城を奪われ、一時的に権力を失ったが、徳川家康の介入により家の実権を取り戻すことができた。戦国時代の乱世にあって、井伊直虎は苦悩しながらも多くの血縁者や支持者と共に井伊家を支え続けた。

彼女の晩年は、母親が隠遁生活を送ることになった寺で過ごしたとも言われており、天正10年（1582年）には世を去る。彼女の戒名は『月泉祐圓禅定尼』であり、後の追善供養により『妙雲寺』と称されるようになる。井伊直虎の墓は、彼女が許婚であった井伊直親の隣に位置している。

また、井伊直虎と次郎法師が同一人物であるとの説については長年にわたって議論が行われており、近年新たな史料が発見されることでその真偽についての意見が分かれた。特に、井伊家の資料や調査を進める中で、次郎法師は男性であった可能性も指摘されている。

井伊直虎の存在は、多くの文献や創作物にも影響を与えており、彼女の生涯や業績は今なお人々の関心を集め続けている。

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