交響曲 (コダーイ)

ハンガリーを代表する作曲家、コダーイ・ゾルターンが手がけた管弦楽作品の多くは、1923年から1939年にかけての期間に生み出されました。しかし、彼の作品リストの中で異彩を放つのが、1961年に完成を見た唯一の交響曲、交響曲ハ長調です。

この作品がコダーイが78歳を迎えた年に書き始められたという事実は特筆に値します。伝記作家であるラースロ・エウセやパーシー・ヤングをはじめ、多くの識者が、高齢にもかかわらず大作たる交響曲を完成させたその創作エネルギーこそ、「コダーイの創造力が晩年になっても一切衰えを見せなかったことの何よりの証明である」と指摘しています。80歳近い年齢でこれほど大規模な管弦楽作品を作曲しうる創造力と気力は、音楽史上でも稀な事例と言えるでしょう。

交響曲の着想は、遡ること1929年頃に芽生えました。当時、アルトゥーロ・トスカニーニの依頼を受けて管弦楽曲『夏の日の夕べ』を改訂したコダーイは、翌1930年のニューヨーク・フィルハーモニックによるトスカニーニ指揮での初演を機に彼との親交を深めます。この頃、トスカニーニから交響曲作曲を強く勧められたことが、本作の創作のきっかけとなりました。伝えられるところによれば、最初の楽想はブダペスト市内の路面電車に乗車中に閃き、手元にあった切符の裏に急いで走り書きしたスケッチに基づいているとされています。

しかし、この交響曲の構想はその後長きにわたり棚上げされてしまいます。再び作曲の手がつけられたのは第二次世界大戦後のことでした。1950年代に入って第1楽章と第3楽章がまず形になり、それに続いて数年後には第2楽章が書き上げられました。最終的に、ルツェルン祝祭管弦楽団からの熱心な要請を受けたことが完成への決定的な後押しとなり、1961年に徹底的な推敲が加えられ、同年5月に全曲が完成に至りました。作曲が進められる間の1957年には、作曲のきっかけを与えたトスカニーニが逝去しており、完成した楽譜には「アルトゥーロ・トスカニーニの思い出のために」という副題が添えられることになりました。

作品の初演は、完成から間もない1961年8月16日、トスカニーニとも縁の深いルツェルン音楽祭にて行われました。指揮はフェレンツ・フリッチャイが務め、ルツェルン祝祭管弦楽団が演奏しました。楽譜は翌1962年にブージー・アンド・ホークス社から出版されています。

本交響曲の楽器編成は以下の通りです。
フルート3（うち1はピッコロ持ち替え）
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット3
トロンボーン3
チューバ
ティンパニ
トライアングル
シンバル
弦五部

楽曲は全3楽章で構成され、全体の演奏時間は26分から30分程度です。

第1楽章 アレグロ、ハ長調、4分の4拍子: ソナタ形式を基にしていますが、自由な前奏曲のような性格も併せ持っています。
第2楽章 アンダンテ・モデラート、ロ長調、4分の5拍子: 五音音階を用いたハンガリー民謡風の主題に基づく、一種の変奏曲形式が採られています。
* 第3楽章 ヴィーヴォ、ハ長調、4分の4拍子: 第2楽章から切れ目なく続けて演奏されます。ソナタ形式によっていますが、民族舞曲の活気にあふれており、性格的にはロンド形式によるフィナーレに近い雰囲気を持っています。

この作品は、ハンガリーの国営レーベルであるクォリトン（後にフンガロトンと改称）からヤーノシュ・フェレンチーク指揮、ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団による録音がリリースされています。また、日本では1969年（昭和44年）にキングレコードのセブンシーズレーベルより、同年度の芸術祭参加作品として発売されました。この日本盤には舞踊音楽がカップリングされており、コダーイとも親交の深かった音楽評論家・音楽教育家の園部三郎氏による詳細な解説が付属していました。

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