交響曲第1番 (ドヴォルザーク)

ドヴォルザーク：交響曲第1番 ハ短調 B. 9 『ズロニツェの鐘』

アントニン・ドヴォルザークによって1865年に書かれたこの交響曲は、彼の創作活動における最初の本格的な管弦楽作品です。ハ短調、B.9という番号が付与されており、『ズロニツェの鐘』（チェコ語: Zlonické zvony）という副題で親しまれています。

概要と背景

本作は1865年の2月11日から3月24日にかけて集中的に作曲されました。完成後、ドイツで行われたコンクールへの応募が試みられましたが、入選に至らず、さらには楽譜が紛失するという不運に見舞われます。このため、作曲者の生前には演奏されることも出版されることもありませんでした。当時のドヴォルザークの交響曲には通し番号が整理されておらず、彼にとって最初に出版された作品である現在の交響曲第6番ニ長調（作品60, B.112）が、かつて「第1番」と呼ばれていた時期があります。

この失われたと思われた楽譜は、ドヴォルザークの没後、1923年にプラハの歴史家ルドルフ・ドヴォルザーク（作曲者との血縁関係はありません）の遺品の中から偶然発見されました。その発見から長い年月を経て、ついに初演が実現したのは1936年10月4日のことでした。チェコのブルノにて、ミラン・サックス指揮、ブルノ国立劇場管弦楽団によって演奏されました。しかし、楽譜の所有者であった遺族はすぐには出版を許可せず、正式な出版譜が世に出たのはさらに後の1961年、チェコの国立音楽出版社からの刊行を待つことになります。

副題に含まれる「ズロニツェ」は、チェコの首都プラハの西方に位置する小さな町です。この町は、ドヴォルザークが少年時代に家業である肉屋の修業をしながら過ごし、同時に初めて本格的な音楽教育を受けた、彼にとってゆかりの深い場所です。副題が具体的に何を表現しているのかは明確ではありませんが、故郷への思いが込められていると考えられます。

楽器編成

この作品の演奏には以下の楽器が用いられます。

ピッコロ1
フルート2
オーボエ2
コーラングレ1
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット2
トロンボーン3
ティンパニ1対
* 弦五部（ヴァイオリン第1部、第2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽曲構成

交響曲は古典的な4楽章構成を取り、全曲の演奏時間は第1楽章の提示部反復を含めて約53分です。

第1楽章 （マエストーソ） – （アレグロ）

ハ短調。速度標語は楽譜に明記されていませんが、導入部はマエストーソ（荘厳に）、主部はアレグロ（速く）と推測されます。拍子は導入部が2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、主部が4分の3拍子です。形式は序奏付きのソナタ形式で、提示部には反復指定があります。

短くも重要な動機を含む序奏に続き、主部に入ると弦楽器によって長大な第1主題が提示され、展開されます。経過部を経て落ち着いた後、歌謡的な性格を持つ第2主題が登場し、こちらも大きく発展します。提示部は厳かな響きで閉じられますが、繰り返しの指示は実際の演奏では省略されることが一般的です。
展開部は序奏の動機と両主題の要素を用いて構築され、壮大に進みます。再現部は序奏が回帰した後、第1主題部の後半から開始されます。第2主題は提示部と同様に再現されますが、その後の長い発展部分は省略されます。やがてコーダに入り、終盤で第1主題の前半部分が改めて示され、楽章を締めくくります。

第2楽章 アダージョ・ディ・モルト

変イ長調、4分の2拍子。三部形式を基調としていますが、より複雑な構造を持っています。

冒頭はフェルマータを伴う重厚な和音による導入句が置かれ、続いて主要主題が提示されます。この楽章ではフガートをはじめとする対位法的な書法が多く用いられているのが特徴です。中間部には新しい主題が登場し、特にその後半では二重フガートが見られます。再現部においてもこの中間部の主題が再び現れるため、全体として「A-B-A-B-A」のような一種のロンド形式と捉えることも可能です。

第3楽章 アレグレット

ハ短調、4分の2拍子。三部形式です。

速度記号は「アレグレット」ですが、交響曲の伝統的な構成におけるスケルツォ楽章に相当する役割を担っています。主部は軽快な性格を持ち、カノン風の対位法的な模倣が多く見られます。中間部は変ホ長調に転じ、主部よりもさらに豊かで歌謡的な旋律的な素材が扱われます。

第4楽章 フィナーレ：アレグロ・アニマート

ハ長調、4分の2拍子。形式は自由なロンド形式（A-B-A-C-B-A'-C-B-A'-コーダ）に近い構造をとります。

主要主題に基づく短い導入の後、オーボエによって陽気で牧歌的な性格の主要主題（A）が提示されます。続く第1副主題（B）は主要主題から派生したもので、シューマンを思わせるような明るい雰囲気を持ち、主要主題との雰囲気的な隔たりは小さいです。主要主題や第1楽章の序奏動機などが随所に顔を出しつつ、再び主要主題が全合奏で力強く奏された後、長大に展開される第2副主題部（C）に入ります。
その後、主要主題は明確には戻らずに第1副主題が現れ、主要主題の断片が次々と奏されますが、完全な形での再現はありません。再び第2副主題が現れ、すぐに第1副主題、続いて主要主題が登場します。さらに第2副主題も顔を出し、その勢いのまま華々しいコーダへと突入し、全曲が力強く締めくくられます。

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