交響曲第2番 (マーラー)

交響曲第2番 ハ短調 「復活」

グスタフ・マーラー作曲の交響曲第2番ハ短調は、「復活」（Auferstehung）の通称で広く知られています。この通称は、第5楽章で歌われるフリードリヒ・クロプシュトックの賛歌「復活」に由来しますが、マーラー自身がこの題名を公式に使用したことはありません。

1888年から1894年にかけて作曲されたこの交響曲は、オルガンやバンダを含む大規模な管弦楽に加え、第4楽章と第5楽章には声楽を導入し、その壮大なスケールと深遠なテーマで聴衆を魅了します。演奏時間は約80分。

作曲の経緯

ブダペスト時代

交響曲第1番を完成させたマーラーは、1888年10月にブダペストのハンガリー王立歌劇場の音楽監督に就任。その年の6月には、後の交響曲第2番の最初の楽章となる「葬礼」を作曲しました。この楽章は当初、交響曲の第1楽章として構想されましたが、後に標題が書き換えられました。

1891年、劇場監督との対立によりブダペストを去ることになったマーラーは、同年ハンブルク市立劇場の指揮者に就任。10月には、作曲済みの第1楽章をショット社に送付し、単一楽章の交響詩として出版を打診しますが、ビューローの拒絶もあり、出版は実現しませんでした。

交響曲の完成

1893年1月、マーラーは交響曲第1番を改訂。同年7月には、交響曲第2番の第2楽章から第4楽章までを完成させました。1894年2月、ビューローの葬儀でクロプシュトックの「復活」を聴いたマーラーは感銘を受け、交響曲の終楽章の歌詞に使用することを決意。同年12月、交響曲第2番を完成させました。

初演

1895年3月4日、声楽の入らない第1楽章から第3楽章までがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されました。全曲初演は同年12月13日、同じくマーラー指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって行われ、大成功を収めました。

楽譜

版の混乱

現在一般的に流通しているのは、1970年にウニヴェルザール出版社から出版されたエルヴィン・ラッツ校訂の「全集版」ですが、この版には改訂の疑義も多く、演奏時にそのまま用いられることは稀です。そのため、古い版とラッツ校訂版を折衷したものが用いられることが多いのが現状です。

キャプラン版

ギルバート・キャプランがマーラーの自筆譜を買い取り、音楽学者レナート・シュトルク・フォイトの協力を得て校訂した「キャプラン版」も存在します。キャプランは自らこの曲を指揮するために本格的な指揮を学び、世界中のオーケストラを指揮して50回以上も上演しています。

楽器編成

フルート4、オーボエ4、クラリネット3、ファゴット4、ホルン10、トランペット6、トロンボーン4、チューバ1、ティンパニ3、シンバル2、タムタム2、大太鼓、小太鼓、グロッケンシュピール、鐘、ルーテ、ハープ2、オルガン、弦五部、ソプラノ独唱、アルト独唱、混声合唱という大規模な編成です。

楽曲構成

スケルツォ楽章を中心とした対称的な5楽章構成が特徴的です。

第1楽章：アレグロ・マエストーソ（ハ短調）
第2楽章：アンダンテ・モデラート（変イ長調）
第3楽章：スケルツォ（ハ短調）
第4楽章：原光（Urlicht）（変ニ長調、アルト独唱）
第5楽章：スケルツォのテンポで（ヘ短調 - 変ホ長調、ソプラノ独唱、アルト独唱、混声合唱）

マーラーによる解題

マーラーは全曲について標題的な説明を残しています。

第1楽章：交響曲第1番の英雄の葬礼
第2楽章：過去の回想
第3楽章：生活の喧噪
第4楽章：単純な信仰
第5楽章：最後の審判、復活

各楽章について

第1楽章

葬送行進曲風の第1主題と、憧憬に満ちた第2主題が対比されます。展開部では第1主題が激しく展開され、再現部では静かに消え入るように終わります。

第2楽章

舞曲風の穏やかな楽章。主部と中間部が交互に現れ、弦楽器のピチカートで静かに終わります。

第3楽章

スケルツォ楽章。「魚に説教する聖アントニウス」と同じ材料で作曲されており、ルチアーノ・ベリオの『シンフォニア』第3楽章のベースにもなっています。

第4楽章

アルト独唱が『子供の不思議な角笛』の歌曲「原光」を歌います。舞台外の金管がコラール風の間奏を添えます。

第5楽章

30分以上にも及ぶ長大なフィナーレ。管弦楽と声楽が一体となり、壮大なスケールで「復活」を歌い上げます。

標題について

最終楽章で使用されたクロプシュトックの「復活」賛歌は、キリスト教における復活を歌ったものです。しかし、マーラーがこの歌詞を採用したのは作曲の最終段階であり、「復活」を標題としたことはありません。

『葬礼』について

第1楽章に「葬礼」という標題をつけた理由については、交響曲第1番の英雄の葬礼であるという説や、マーラー自身の死生観を表しているという説などがあります。ポーランドの国民的詩人、アダム・ミツキェヴィチの劇詩に影響を受けたという指摘もあります。

交響曲第2番「復活」は、生と死、そして復活という深遠なテーマを、壮大な音楽で表現したマーラーの傑作です。

もう一度検索