交響曲第4番 (シューマン)

シューマン 交響曲第4番 ニ短調 作品120

ロベルト・シューマンが作曲した交響曲第4番ニ短調作品120は、彼の妻クララの22歳の誕生日にプレゼントとして贈られました。作曲は1841年の夏、わずか3ヶ月という短い期間で行われました。

概要

シューマンとクララは1840年9月に結婚しており、この交響曲はクララにとって結婚後2回目の誕生日プレゼントとなりました。初演は同年の12月に行われましたが、その後1851年に改訂され、現在では改訂版が広く演奏されています。

作曲年としては第1番『春』に次ぐ2番目の交響曲ですが、出版は改訂後の1854年であったため、第4番とされています。作品番号120は改訂版に与えられたもので、初稿には作品番号がありません。演奏時間は改訂版で約30分です。

作曲の経緯

初稿

1841年はシューマンにとって作曲活動が非常に充実した年でした。彼はまず交響曲第1番を完成させ、その後も序曲や幻想曲を作曲しました。そして6月から、後に第4番となるこのニ短調交響曲の作曲に着手し、9月9日に完成させ、妻クララの誕生日に贈りました。

初演は3ヶ月後の12月6日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって行われました。シューマン自身は「第1番に劣らない」と自信を持っていましたが、初演時の評価は芳しくなく、出版は見送られました。原因として、メンデルスゾーンの体調不良による指揮者の変更や、クララとリストという当時の人気ピアニストの演奏会が同時に行われたことが挙げられます。

ニ短調交響曲が広く知られるようになったのは、シューマンの死後の1891年に改訂版が出版されてからです。

改訂稿

1851年、交響曲第3番『ライン』を完成させたシューマンは、ニ短調交響曲の改訂に取り組みました。オーケストレーションも大幅に変更されましたが、彼は手紙で「それが主目的ではない」と述べている通り、構成はほぼそのまま維持されています。最大の変更点は、楽章間の区切りをなくし、全曲を続けて演奏するようにしたことです。ただし、2003年出版のジョン・フィンソン校訂版では、第1楽章と第2楽章の終止線が複縦線となり、アタッカの扱いとなっています。

改訂版は1853年にシューマン自身の指揮で初演され、翌年に出版されました。シューマンは「以前の作品より充実していて効果十分だった」と述べています。この楽譜には献辞はありませんが、自筆譜はヨアヒムに贈られています。

シューマンの死後、楽譜の編集を担当したブラームスは、初稿の優位性を主張し、クララと意見が対立しました。ブラームスの尽力で初稿版は1889年に再演され、1891年に出版されましたが、この版は厳密には初稿版ではありません。現在では改訂稿が一般的に演奏されますが、初稿版による演奏も存在します。

日本初演は1926年、佐野伴治・荒川文六指揮、九大フィルハーモニー・オーケストラによって行われました。

楽器編成

フルート2、オーボエ2、クラリネット2（初稿：C管、改訂版：B♭管）、ファゴット2、ホルン4、トランペット2（D管→F管）、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部。

楽曲構成

楽章区分はなく、全曲続けて演奏されますが、便宜上4つの楽章に分けて解説します。各楽章で共通の主題が使用されており、全曲の統一性が図られています。

第1楽章：かなり緩やかに (Ziemlich langsam) － 生き生きと (Lebhaft)

ニ短調。序奏付きのソナタ形式ですが、再現部がなく、提示部、展開部、コーダで構成されています。序奏は3/4拍子で始まり、第1主題を予告する動機が繰り返され、主部に入ります。主部は2/4拍子で、第1主題は幻想的な響きを持っています。展開部では第1主題が扱われ、新たな主題が現れます。コーダでは流麗な旋律が勝ち誇ったように奏でられ、第1主題と新しい主題で締めくくられます。

第2楽章：ロマンツェ かなり緩やかに (Ziemlich langsam)

イ短調。3/4拍子。三部形式。オーボエとチェロの独奏により、第1楽章の主題に基づく旋律が奏でられ、弦が第1楽章序奏の主題を示します。中間部ではヴァイオリン独奏が流れるような旋律を奏でます。

第3楽章：スケルツォ 生き生きと (Lebhaft)

ニ短調。3/4拍子。ABAB形式。スケルツォの主題は第1楽章序奏の主題に基づいています。中間部は変ロ長調で、第2楽章の中間部と同一の素材です。第3楽章と第4楽章は続けて演奏されます。

第4楽章：フィナーレ 緩やかに (Langsam) － 生き生きと (Lebhaft)

序奏付きのソナタ形式ですが、再現部では第1主題が再現されません。序奏は4/4拍子で、第1楽章の主題を扱いながら壮大に盛り上がります。主部はニ長調、4/4拍子で、第1主題は第1楽章展開部で示された新しい主題です。展開部では第1主題をフガート的に展開し、再現部では第2主題のみが再現します。コーダでは速度を速め、力強く全曲を締めくくります。

初稿の特徴

初稿では、各楽章の速度指定にイタリア語が用いられていました。

Andante con moto - Allegro di molto
Romanza: Andante
Scherzo: Presto
Largo - Finale: Allegro vivace

第1楽章の序奏は、改訂版とは異なり主調の属和音から始まります。また、序奏の後半にはサラバンド風のエピソードが登場します。展開部ではトロンボーンによる動機がソロで奏でられます。

第2楽章では、当初ギターを使用しようとした形跡があります。また、チェロのソロは半プルトのソリに修正されています。

第3楽章では、当初8小節のファンファーレの後にスケルツォに入るようになっていました。しかし、このファンファーレは削除され、別のファンファーレが自筆譜に書き込まれていますが、出版譜には採用されていません。

第4楽章では、主題の後半4小節が異なっており、提示部の繰り返しもないため、演奏時間は少し短く、全体で約24分です。

オーケストレーションの変更・改訂

シューマンの交響曲は、かつては様々な指揮者によってオーケストレーションが変更されていました。マーラーによるものが有名ですが、他の交響曲に比べると、この曲での改変は比較的少ないです。また、セル、クレンペラー、クーベリック、ロジェストヴェンスキーなどは、より過激な変更を行っています。

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