交響曲第6番 (シベリウス)

シベリウス：交響曲第6番 ニ短調 作品104

フィンランドを代表する作曲家、ジャン・シベリウスが1923年に完成させた交響曲第6番 ニ短調 作品104は、彼の円熟期を飾る重要な作品の一つです。この交響曲は、表面上の調性表記であるニ短調から受ける印象とは異なり、教会旋法、特にドリア旋法を基調としており、全編を通じて内省的で清澄な響きに満ちています。

作曲の経緯

本作の構想は、シベリウスが交響曲第5番や後に第7番となるアイデアを同時に温めていた1914年秋に遡ります。翌年の生誕50年記念行事に向けて第5番が優先されたものの、第6番の楽想に関する作業も並行して進められていました。この過程で、シベリウスがこの楽想を基にヴァイオリン協奏曲を構想していた時期があったことが、出版社への手紙からうかがえます。しかし、このアイデアは比較的早期に取り下げられ、交響曲として作曲が進められることになります。

第一次世界大戦の勃発による情勢不安は作曲活動に影響を与え、一時中断を余儀なくされました。フィンランドがロシアからの独立を果たした1918年、シベリウスは再び創作に取り組めるようになります。そして1919年には、長年彼を経済的、精神的に支え続けた恩人、ヨーナス・カルペラン男爵が逝去しました。この喪失は、当時作曲中だった第6番と第7番の音楽に深く影響を与え、作品に宗教的な色彩と独特の陰影をもたらしたと言われています。シベリウス自身、当初はこの作品を「荒々しく、情熱的な性格」を持つものとして捉えていましたが、完成された作品は教会旋法や厳格な対位法的手法を多用した、より思索的な性格を帯びるに至りました。これには、彼がかねてから研究していたパレストリーナなどのルネサンス期宗教音楽からの影響も看過できません。作品は最終的に1923年1月に完成されました（一部資料では1922年秋完成説も存在します）。

作品概要

初演：1923年2月19日、ヘルシンキにて作曲者自身の指揮、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団によって行われました。
献呈：スウェーデンの著名なピアニスト・作曲家であるヴィルヘルム・ステーンハンマルに献呈されています。
楽器編成：フルート2、オーボエ2、クラリネット2、バス・クラリネット1、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、ハープ、弦五部（部分的に分割あり）です。ハープの使用はシベリウスの交響曲では比較的珍しい例です。
音楽的特徴：前述の通り、ニ短調という表記でありながら実質的にはドリア旋法が音楽を支配しており、その清澄でどこか神秘的な響きが特徴です。平均的な演奏時間は26〜27分程度です。

各楽章

第1楽章 アレグロ・モルト・モデラート
ソナタ形式の枠にとらわれない自由な構成を持つ楽章です。ヴァイオリンによるゆったりとした聖歌風の導入主題で始まり、これに由来する第一主題がオーボエとフルートによって問いかけるように提示されます。木管と弦楽器を中心にこの主題が展開された後、弦のトレモロに乗るフルートの軽快なパッセージが第二主題として登場します。展開部では弦楽器が中心的な役割を果たし、下降音型を基にした展開がなされます。そのまま再現部へ移行し、チェロによる第一主題の再現に続き、第二主題も再現されます。提示部同様に伸びやかな音楽が続いた後、ホルンの和声と弦のトレモロがコーダを導きます。全休止を挟み、音階の上昇・下降が繰り返され、最後に冒頭の主題が回帰して静かに閉じられます。

第2楽章 アレグレット・モデラート - ポーコ・コン・モート
自由なソナタ形式による楽章です。フルートとファゴットが奏でる冒頭主題は、第1楽章の主題と関連があり、楽章間の橋渡しとなると同時に、楽章全体に寂寥感を与えています。この雰囲気を引き継ぎ、ヴァイオリンが主要主題を提示し、主題末尾の上昇音型が繰り返されて変奏されます。途中「ポーコ・コン・モート」となり音楽に動きが加わりますが、最後は簡潔に終わりを迎えます。

第3楽章 ポーコ・ヴィヴァーチェ
展開部を欠くソナタ形式。付点風のリズムが支配的な、スケルツォ的な性格を持つ楽章です。下降・上昇する短い導入句が全体を特徴づけています。木管楽器による第一主題の提示後、再び導入句が現れ、フルートが第二主題を提示し、オーボエがこれを反復します。コーダでは弦と木管が交互に騎行風のリズムで進み、金管のアクセントを伴って提示部が終わります。再現部は導入なしで始まり、ほぼ型どおりに進みます。音楽は徐々に高揚し、荒々しい結末に至ります。

第4楽章 アレグロ・モルト - ドッピオ・ピウ・レント
自由な三部形式による終楽章で、ドリア旋法を基調とした宗教的な雰囲気が漂います。緩-急-緩の構成を基本としながらも、ソナタ形式や変奏曲の要素を取り入れた自由な展開を見せます。木管、ホルン、ヴァイオリンの問いかけに応えるヴィオラとチェロによる主要主題で開始されます。全休止を経て中間部へ移り、主部の要素も交えながら荒々しく展開します。クライマックスの後に主要主題が変奏されて回帰し、やがて「ドッピオ・ピウ・レント（さらに倍ほど遅く）」となり、弦楽器に現れる結尾主題から長大なコーダに入ります。最後は弦楽器の清冽な響きを残し、静かに消え去るように閉じられます。

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