交響曲第6番 (シューベルト)

フランツ・シューベルト：交響曲第6番 ハ長調 D 589 『小ハ長調』

フランツ・シューベルトが手掛けた交響曲の中でも、初期の円熟を示す作品として知られるのが、交響曲第6番ハ長調 D 589です。この曲は、1817年10月に作曲が開始され、翌1818年2月にかけて完成されました。同じハ長調でありながら、より規模の大きな傑作として知られる第8番『ザ・グレート』との対比から、特に「小ハ長調」（独: Kleine C-Dur、英: Little C major）という愛称で親しまれています。

作曲背景と初演

この交響曲第6番は、シューベルトが20代前半という若き時期に書かれました。当時の彼は、オペラや室内楽、リートなど様々な分野で作曲活動を行っており、交響曲の創作も精力的に進めていました。作品が完成した後、その初演は作曲家自身の存命中には叶いませんでした。シューベルトの逝去から約1ヶ月後の1828年12月14日、ウィーン楽友協会が主催した音楽祭において、ようやく陽の目を見ることとなります。伝えられるところによれば、シューベルト自身はこの機会に交響曲第8番『ザ・グレート』の演奏を強く望んでいましたが、当時のオーケストラにとってその演奏は極めて困難であると判断され、演奏は拒否されました。その代わりに、シューベルトが提出したのがこの第6番の楽譜でした。初演時の指揮は、オットー・ハトヴィヒが務めました。

音楽的な特徴

この第6番は、先行する交響曲第5番と比較すると、シューベルト独自の音楽的な個性がより明確に現れていると評価されています。同時に、彼が吸収していた音楽的な影響の範囲も、第5番に比べてはるかに多様であることが示されています。特に、ベートーヴェンの交響曲からの影響が様々な点で指摘されており、構成や楽想において、彼の偉大な先達を範としたと思しき箇所が見られます。また、当時のウィーンで絶大な人気を博していたロッシーニのオペラにシューベルトが強く惹かれていたことが知られており、その影響から、この交響曲には明るく、どこかイタリア風の軽快な旋律やリズムが取り入れられている点も特徴的です。ベートーヴェンの構築性とロッシーニの流麗さが融合した、シューベルトならではの魅力が感じられる作品と言えるでしょう。

楽器編成

標準的な2管編成にティンパニを加えた構成です。

フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 2
トランペット 2
ティンパニ
弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽章構成と楽曲分析

全4楽章から構成されており、全体の演奏時間は約30分程度です。

第1楽章：アダージョ - アレグロ

ハ長調、4分の3拍子から2分の2拍子へ。ソナタ形式で、提示部には反復の指示があります。緩やかな導入部（アダージョ）に続き、主部（アレグロ）に入ると、木管楽器が中心となって、弾むような軽快な第1主題が提示されます。第2主題もまた、木管楽器に提示が委ねられ、弦楽器がそれを優しく伴奏します。

第2楽章：アンダンテ

ヘ長調、4分の2拍子。A-B-A-B-コーダという複合二部形式で書かれています。主要主題はまずヴァイオリンによって奏でられ、その後フルートやクラリネットへと引き継がれます。対照的な副主題もヴァイオリンで提示され、同様に木管楽器へと受け渡されます。これら二つの主題が繰り返された後、主要主題に基づいたコーダによって楽章が閉じられます。

第3楽章：スケルツォ：プレスト - トリオ：ピウ・レント

ハ長調、4分の3拍子。三部形式（スケルツォ-トリオ-スケルツォ）で書かれています。この楽章において、シューベルトは彼の交響曲作品で初めてスケルツォを採用しました。ベートーヴェンの影響を受けた力強く急速なスケルツォと、穏やかで対照的なトリオとの対比が印象的です。

第4楽章：アレグロ・モデラート

ハ長調、4分の2拍子。展開部を持たない独特のソナタ形式で構成されています。楽章は弦楽器だけで奏でられる軽やかな第1主題によって始まります。主題は次第に高揚し、経過部へと進みます。変イ長調で現れる第2主題は、せわしない音階的な動きが特徴です。さらに、付点リズムを伴う第3主題、そしてベートーヴェンの交響曲第7番を思わせるような付点リズムを持つ第4主題が提示されます。第1主題の再現部へと導く連結部では、フルートとクラリネットが断続的な音を約15小節にわたって繰り返すというユニークな表現が見られます。再現部は概ね型通りに進みますが、第4主題の部分はやや拡大されて扱われます。最後に、ややテンポを速めて、華やかで力強いコーダによって全曲を締めくくります。

この交響曲第6番は、シューベルトが自身の様式を確立していく過程において重要な位置を占める作品であり、古典派の伝統と彼自身のロマンティックな感性が融合した、魅力あふれる一曲です。

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