交響曲第7番 (ブルックナー)

アントン・ブルックナー 交響曲第7番 ホ長調

アントン・ブルックナーの交響曲第7番 ホ長調は、彼の交響曲の中でも特に人気が高く、初演が成功したことで知られる作品です。1884年の初演以来、その美しい旋律と壮大な構成は多くの聴衆を魅了し、第4番と並んでブルックナーの代表作の一つとされています。

作曲の経緯

この交響曲は、第6番の完成直後の1881年9月末に第1楽章の作曲が開始されました。第3楽章のスケルツォが1882年10月に完成し、第1楽章のスコアは同年末に完成しました。第2楽章の作曲中には、ブルックナーが最も敬愛していたリヒャルト・ワーグナーが危篤となり、ブルックナーは「ワーグナーの死を予感しながら」作曲を進めました。1883年2月13日にワーグナーが亡くなると、その悲しみの中でコーダを追加し、第184小節以降をワーグナーへの「葬送音楽」としました。第2楽章のスコアは同年4月21日に完成し、全4楽章は1883年9月5日に完成しました。

1884年12月30日、アルトゥル・ニキシュ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によってライプツィヒ歌劇場で初演され、大成功を収めました。この成功により、ブルックナーは交響曲作曲家としての名声を確立しました。1885年12月には、指揮者ヘルマン・レヴィの推薦により、バイエルン国王ルートヴィヒ2世に献呈されました。楽譜は1885年に出版され、この初版は「グートマン版」または「改訂版」と呼ばれます。日本初演は1933年10月21日、クラウス・プリングスハイム指揮の東京音楽学校管弦楽団によって奏楽堂で行われました。

楽器編成

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ワグナーチューバ4（テノール2、バス2）、コントラバス・チューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、弦五部で構成されています。ただし、ハース版では原則としてシンバルとトライアングルは使用されませんが、アド・リブとして記載されています。

演奏時間

演奏時間は約65分ですが、60分を切る演奏や70分を超える演奏も珍しくありません。前半の第1～2楽章だけで全体の3分の2を占めます。

楽曲の構成

第1楽章 アレグロ・モデラート

ホ長調、2/2拍子。ソナタ形式で、3つの主題を持つ。全体的に美しく明るい曲想で、ティンパニは再現部とコーダでのみ使用されます。第1主題は、ブルックナー自身が夢の中で友人に示され、書き留めたという逸話が残っています。弦楽器の弱音のトレモロから始まり、チェロが第1主題を奏で、オーケストラの高音楽器に引き継がれます。第2主題は木管楽器から始まり、徐々に他の楽器に引き継がれます。第3主題はロ短調から始まり、転調を繰り返します。展開部は比較的短く、3つの主題が展開され、第2主題の反行形が印象的です。再現部を経て、コーダは第1主題に基づいて締めくくられます。

第2楽章 アダージョ

嬰ハ短調、4/4拍子。“Sehr feierlich und sehr langsam”（非常に荘厳に、そして非常にゆっくりと）。ロンド形式で構成されています。主要主題は嬰ハ短調で、Bは嬰ヘ長調で登場します。主要主題の1回目の再現は転調を繰り返しながら進行し、Bの2回目は変イ長調で登場します。6連音符に乗せられた主題はクライマックスを迎え、その後、ワーグナーのための「葬送音楽」が奏でられます。最後は主要主題が変ニ長調で奏でられ、静かに終わります。

第3楽章 スケルツォ

イ短調、3/4拍子。“Sehr Schnell”（非常に速く）。三部形式で構成されています。前の楽章の緊張感から解放され、ブルックナーらしい野性的な雰囲気を持っています。中間部はヘ長調で、のどかな曲想です。

第4楽章 フィナーレ

ホ長調、2/2拍子。“Bewegt, doch nicht schnell”（運動的に、あまり速くなく）。自由なソナタ形式で、3つの主題を持ちます。第1主題は第1楽章の第1主題と同じモチーフを使用し、符点リズムで軽やかな雰囲気に変えています。第2主題を経て、コラール風の第3主題に進みます。展開部は第1主題に基づいており、短いです。再現部では主題が逆の順序で現れ、第1楽章の第1主題が戻ってきて終わります。他のブルックナーの交響曲の終楽章に比べ、親しみやすい雰囲気を持っています。

版の問題

この曲には、ブルックナーの生前に出版された「初版」（1885年）、ハース版（1944年）、ノヴァーク版（1954年）の3つの主要な版が存在します。ブルックナー自身による大幅な改訂は行われていませんが、自筆稿や資料の解釈の違いから、版によって差異があります。特に第2楽章の打楽器の扱いについては、ハース版とノヴァーク版で大きく異なります。

打楽器の追加

第2楽章の177小節におけるシンバル、トライアングル、ティンパニの打楽器の追加は、版問題の重要な点です。自筆楽譜では、これらの打楽器は別の紙片に記され、貼り付けられていますが、その紙片には「Gilt nicht」（無効）と鉛筆で書かれています。ハースは、ブルックナーの意志ではなく、周囲の意見で追加されたものであり、最終的に取り消されたと判断し、打楽器を採用しませんでした。一方、ノヴァークは「Gilt nicht」の筆跡がブルックナーではないと判断し、打楽器の追加がブルックナーの最終的な意図であると判断し、採用しました。しかし、現在では、この「Gilt nicht」がブルックナーの筆跡である可能性が指摘され、ハースの判断が支持される傾向にあります。

その他の相違点

ノヴァーク版と初版は比較的似ていますが、ホルンのアウフタクトやクラリネットの音符など、細部に違いがあります。ハース版とノヴァーク版では、打楽器のほか、第1楽章の管弦楽法や拍子、第4楽章の速度変化の指示など、様々な点で違いが見られます。

エピソード

この交響曲はブルックナーの名声を高めるきっかけとなりましたが、ウィーンではハンスリックらの反ワーグナー派が強く、ブルックナー自身も演奏に消極的でした。葬儀の際、この交響曲のアダージョ楽章がホルン四重奏に編曲され演奏されました。また、ワーグナーを愛好していたアドルフ・ヒトラーもブルックナーを愛し、この交響曲のアダージョ楽章を聴いていたとされます。

参考文献

根岸一美『ブルックナー 作曲家・人と作品』音楽之友社、2006年。

外部リンク

交響曲第7番ホ長調の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
ブルックナーの交響曲第4・7番の総譜 (HTML) - IUDLP: The Indiana University Digital Library Program
Symphony No.7 in E major, WAB.107 - 『Musopen』より
Symphony No.7 in E major WAB.107 (2nd edition - 1895) - 『Free-scores.com』より
Siebte Symphonie - 『Bruckner Online』より
Bruckner, Anton／SYMPHONY NO.7, E MAJOR - Score and Parts - ニューヨーク・フィルハーモニック公式『Digital Archives』より
『ABRUCKNER.COM』より
Discography「Symphony No.7」（英語）
川﨑高伸『ブルックナーの《第七交響曲》について』 (PDF) （日本語）
「Downloads」コーナーより
Orchestral Scores「Symphony No.7」 - オイレンブルク、グートマン、Redlich各版の総譜をダウンロード可能)
October, 2008 - Paul Hindemith／Symphony No.7 - 1960年2月に収録された、ヒンデミット指揮ニューヨーク・フィルによる演奏音源を掲載
January, 2018：Symphony No.7／Raoul Grueneis／Akademisches Orchestra Freiburg - 1994年5月にフィレンツェにて収録された演奏音源を掲載
Sinfonia in mi maggiore n.7（イタリア語） - 『Magazzini Sonori』より
Sinfonia n°7 in Mi maggiore（イタリア語） - 『Liber Liber』より
* BRUCKNER Symphony No.7 & WAGNER Siegfried's Funeral March（英語） - 『MusicWeb-International』より

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