クラウス・プリングスハイム

クラウス・プリングスハイム(1883年7月24日 - 1972年12月7日)は、ドイツ・バイエルン出身の音楽家です。指揮者作曲家、音楽評論家ピアニストとして幅広い分野で活躍しました。彼は、レオニード・クロイツァーマンフレート・グルリットらとともに、日本におけるクラシック音楽の普及と定着に大きく貢献しました。

生涯



ドイツ時代


プリングスハイムは、数学者であり美術品収集家でもあった父アルフレート・プリングスハイムの元に生まれました。彼は幼少期から音楽の才能を発揮し、13歳で最初の管弦楽曲を作曲しました。青年時代にはリヒャルト・シュトラウスの影響を受け、作曲ルートヴィヒ・トゥイレに、ピアノをベルンハルト・シュターフェンハーゲンに師事しました。また、ミュンヘン大学で数学物理学を学んだ後、ウィーングスタフ・マーラーに指揮法を学びました。

1907年からはジュネーヴプラハ、ブレスラウでオペラ指揮者として活躍し、第一次世界大戦勃発後の1915年にはブレーメン市立劇場の総監督に就任しました。戦後はベルリンに移り、マックス・ラインハルトの劇場で音楽監督兼座付き作曲家として活動しました。1923年から翌年にかけては、ドイツで初めてマーラーの交響曲の連続公演を企画しましたが、当時のインフレーションのため、交響曲第8番と第9番の上演は実現しませんでした。

政治活動にも関心を持ち、1920年代にはドイツ社会民主党に入党しましたが、同時にダダイスム・サークルにも参加するなど、芸術と社会の両面で活発な活動を行いました。1923年にはベルリン大学で「音楽社会学の根本問題」と題する講演を行い、その後もしばしば演壇に立ちました。1929年には、政府がクロール歌劇場の閉鎖を決定した際には、反対の立場を表明しました。

一度目の来日


1931年ベルリン市立歌劇場の監督選挙に落選したことを機に、チャールズ・ラウトルップの推薦で来日し、東京音楽学校(現東京藝術大学)の作曲教師に就任しました。東京音楽学校では、マーラー、ストラヴィンスキー、クルト・ヴァイルといった当時のモダンな作品を積極的に取り上げ、学園オーケストラを指揮して上演し、音楽界に新風を吹き込みました。また、学校オペラでは1932年に「デア・ヤーザーガー」を上演しました。

1935年には自作『管弦楽のための協奏曲』を初演しましたが、その際に「和声付けされたポリフォニックな日本音楽の創出」を提唱したことが、よりモダンな作風を志向する諸井三郎箕作秋吉らから批判を浴びました。1937年、駐日ドイツ大使館からユダヤ人追放の圧力を受け、任期満了と共に東京音楽学校を辞任しました。多くの文化人が彼の辞任を惜しみ、告別演奏会が開かれ、東京駅では海軍軍楽隊が送別の演奏を行いました。

その後、シャム政府(現在のタイ)に招かれ、1937年11月からバンコクの芸術院で西洋音楽の教授として勤務しました。しかし、1939年にタイ政府が枢軸国寄りの政策に転じたため、「ドイツならびにイタリアの正当なパスポートを持たないユダヤ人」として国外追放となりました。タイ滞在中には、シャムやインドシナ民族音楽を研究していました。

二度目の来日


1939年5月に再来日すると、戦時下の日本の状況に妥協し、愛国主義的な作品の創作に着手しました。一方で、在日ユダヤ人音楽家に対するナチス・ドイツ政府の圧力にもかかわらず、自ら東京室内交響楽団を率いてモーツァルト、J.S.バッハ、フランス・バロック音楽を本格的に紹介しました。しかし、日本の戦況が悪化すると、1945年5月には敵性外国人として都内の修道院に軟禁状態となりました。

第二次世界大戦後、進駐軍が接収したアーニー・パイル劇場(現・東京宝塚劇場)の指揮者となりましたが、教壇への復帰が叶わなかったため、1946年に渡米し、妹一族の亡命先であるカリフォルニア州に滞在しました。この間の活動は不明です。

三度目の来日


1951年に来日20周年記念演奏会が東京で開催されたことをきっかけに、再々来日し、日本に永住することを決意しました。武蔵野音楽大学の教授に就任し、後進の指導に当たりました。また、1961年には東京文化会館開館記念の「東京世界音楽祭」で日本側スタッフの一員として活動し、初期の「日本マーラー協会」「日本ヤナーチェク協会」の設立にも尽力しました。晩年は、作曲活動と並行して、英字紙に音楽評論を寄稿していました。

戦前・戦中には、学生や演奏家から気難しく癇癪持ちのイメージを持たれていたようですが、戦後には武蔵野音大の学生や同僚から「プリン先生」の愛称で親しまれるようになりました。また、晩年にはビートルズにも関心を寄せていたと言われています。

長男のハンス・エーリク・プリングスハイムは、日本でタレント活動を行い、次男のクラウス・フーベルト・プリングスハイム2世は政治学者として活躍しました。

作品



プリングスハイムは、数多くの作品を残しました。

交響詩「ヴァレンタイン」作品6 (1896年)
交響詩「海にて」作品22 (1900年)
歌曲「ヴェニス」作品24 (1902年)
ピアノと管弦楽のための協奏曲 作品26 (1905年)
オペラ「ロイコとラッダ」(1917年)
テーオドーア・シュトルムの詩による10曲の歌 作品27 (1917年又は1918年)
シラーの「群盗」からアマリエのふたつの歌 (1921年又は1922年)
古風な様式による小組曲 作品29 (1922年)
四つの労働歌 作品31 (1922年)
映画音楽「除夜の悲劇」 (1923年)
管弦楽のための協奏曲 作品32 (1934年)
シャム国王行進曲 作品38 (1938年)
興亜行進曲 作品40 (1938年)
ヴァイオリンとピアノのためのシャムのメロディ 作品37 (1938年?)
日本海軍の行進曲による変奏曲とフーガ (1938年?)
ラジオ劇「山田長政」 (1939年)
シロフォンと管弦楽のためのコンチェルティーノ (1962年)
主題と変奏 (1972年)

門人



プリングスハイムは、多くの音楽家を育成しました。

安部幸明
石渡日出夫
市川都志春
上埜孝
大森盛太郎
尾高尚忠
柏木俊夫
川辺真
清瀬保二
桑原研郎
呉泰次郎
神良聡夫
小松清
佐藤長助
渋谷修
須賀田礒太郎
高田三郎
田中昭徳
田村徹
長谷川良夫
坂幸也
平井康三郎
松永通温
村井恒雄
藤山一郎
柳田孝義
山縣茂太郎
山田和男(山田一雄
渡辺茂夫
渡鏡子

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