交響曲第7番 (ヴィラ＝ロボス)

交響曲第7番「平和の旅」

エイトル・ヴィラ＝ロボスが1945年に作曲した交響曲第7番は、「Odisséia da paz」というポルトガル語の副題を持ち、日本語では通常「平和の旅」と訳されます。この作品は、第二次世界大戦が終結したばかりの激動の時代に生み出されました。

作曲の背景とコンクールへの応募

本作の作曲は、1945年にブラジルのリオデジャネイロで開始されました。これは、アメリカ合衆国のデトロイトで開催された音楽コンクールへの応募を目的としていたためです。コンクールの規定には、応募作品を匿名で提出することが義務付けられており、ヴィラ＝ロボスは規定に従い、「A. Caramurú」という偽名を用いてこの交響曲を提出しました。当時の多くのコンクールと同様に、匿名とすることで審査の公平性を保つ意図があったと考えられます。しかし、残念ながらこの交響曲はコンクールでの入賞を果たすことはありませんでした。

副題「平和の旅」に込められた意味

交響曲に「平和の旅」という副題が冠された背景には、作曲時期が深く関わっています。この作品は、ナチス・ドイツが無条件降伏し、ヨーロッパにおける第二次世界大戦が終結した1945年5月7日の直後に書かれました。ヴィラ＝ロボスは、戦争の終結と到来する平和への希望や、あるいは困難な時代を乗り越えて平和へと向かう人類の道のりを「旅」にたとえ、このタイトルを選んだのでしょう。しかし、興味深いことに、ヴィラ＝ロボスの公式作品カタログの第2版には、この作品名が一時的に「Odisséia de uma raça」（人種の旅）と記され、短い筋書きが併記されていた箇所が存在します。これは作品の解釈に別の視点を示唆するものですが、一般的には「平和の旅」として広く知られています。

歴史的な初演

作品の初演は、作曲から約4年後の1949年3月27日に実現しました。初演の地は、イギリスの文化の中心地であるロンドンでした。この記念すべき演奏会では、作曲者であるヴィラ＝ロボス自身が指揮台に立ち、世界的に著名なオーケストラであるロンドン交響楽団が演奏を担当しました。作曲家自身のタクトによる初演は、作品に込められた意図や表現を最も直接的に伝える機会となりました。

楽曲の構造

交響曲第7番は、古典的な交響曲の様式に則り、全体が4つの楽章で構成されています。各楽章の間に切れ目なく演奏されるのではなく、それぞれが独立した楽章として提示されます。全曲の演奏時間は、およそ30分程度です。各楽章には以下のテンポ指示が与えられています。

第1楽章: Allegro vivace
第2楽章: Lento
第3楽章: Sčerzo (Allegro non troppo)
第4楽章: Allegro presiso

大規模な楽器編成

この交響曲は、ヴィラ＝ロボス作品に特徴的な、豊かで色彩感あふれる大規模なオーケストラ編成を要求します。特に管楽器セクションが充実しており、木管楽器や金管楽器はそれぞれ多くの奏者を必要とします。また、打楽器セクションも非常に多彩であり、伝統的なオーケストラ打楽器に加えて、ブラジル音楽で使用されるパンデイロやショーカリョ、ヘコヘコなども含まれている点が注目されます。鍵盤楽器やハープも効果的に使用され、作品全体の響きに厚みと多様性を加えています。

使用される主な楽器編成は以下の通りです。

木管楽器: ピッコロ2、フルート3、オーボエ3、コーラングレ1、クラリネット3、バスクラリネット2、ファゴット3、コントラファゴット2
金管楽器: ホルン6、トランペット4、トロンボーン4、チューバ1
打楽器: ティンパニ、タムタム、シンバル、トライアングル、パンデイロ、ショーカリョ、グロッケンシュピール、ヘコヘコ、スネアドラム、大型スネアドラム、バスドラム
鍵盤楽器・その他: ノバコード、シロフォン、ヴィブラフォン、チェレスタ、ハープ2、ピアノ1
* 弦楽器: 弦五部（ヴァイオリン第一部、ヴァイオリン第二部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

作品の意義

ヴィラ＝ロボスの交響曲第7番「平和の旅」は、第二次世界大戦という大きな時代の転換期に生み出された作品として、歴史的な重みを持ちます。コンクール応募という具体的な動機、そして何よりも「平和への旅」という力強いメッセージを内包するこの作品は、ヴィラ＝ロボスがその生涯で取り組んだ多様な音楽的探求の一端を示すものであり、彼の交響曲の中でも独自の光彩を放つ存在と言えるでしょう。

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