交響曲第9番 (ハリス)

ロイ・ハリス（Roy Harris, 1898-1979）は、アメリカ合衆国の作曲家として、特にその力強い交響曲作品群で知られています。彼の創作活動における一つの節目として位置づけられるのが、1962年に完成された交響曲第9番です。

この作品は、当時フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督を務めていた高名な指揮者、ユージン・オーマンディからの特別な委嘱に応える形で生まれました。オーマンディは自身の楽団のために新しい主要作品を求めており、ハリスにその作曲を依頼したのです。作曲家は、この都市とその文化に対する敬意を表し、作品をフィラデルフィア市に献呈しました。

交響曲の初演は、作曲の翌年、1963年の1月18日に盛大に行われました。指揮は委嘱者であるユージン・オーマンディ自身が執り、フィラデルフィア管弦楽団がその世界初演を担いました。この初演は、20世紀アメリカの音楽シーンにおいて重要な出来事として注目されました。

楽曲は全体として約28分という演奏時間を要し、三つの楽章によって構成されています。各楽章はそれぞれ明確な性格と構造を持ち、全体の流れを形作っています。

この交響曲の特徴の一つに、その大規模な楽器編成があります。ハリスは4管編成を採用しており、これは彼の音楽が要求する響きの豊かさや重厚感を表現するために不可欠です。具体的には、以下のような楽器群がスコアに記されています。

木管楽器：フルート3、ピッコロ1、オーボエ2、イングリッシュホルン2、クラリネット3、バスクラリネット1（ただし、第4奏者がクラリネットから持ち替える）、ファゴット3、コントラファゴット1（ただし、第4奏者がファゴットから持ち替える）
金管楽器：ホルン6、C調の独奏トランペット1、トランペット3、トロンボーン3、バストロンボーン1、バリトン1、チューバ1
鍵盤楽器：ハープ1、ピアノ1
打楽器：ティンパニ1、打楽器（種類は特定されていませんが、多様な楽器が用いられると推測されます）
弦楽器：弦五部（ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

特に金管楽器においては6本のホルンや独奏トランペットの使用が目を引き、楽曲におけるその重要性を示唆しています。また、木管楽器の充実も、音色の多様性や厚みをもたらしています。この豪華な編成は、ハリスがこの作品に込めた壮大な表現意図を具現化するための基盤となっています。

各楽章の構成は以下の通りです。

第1楽章：前奏曲（Prelude）。この楽章は、楽曲の導入として機能し、3/2拍子で始まり、途中で6/4拍子へと拍子が変化します。
第2楽章：コラール（Chorale）。静かで厳かな雰囲気を持つ楽章であり、2/4拍子で書かれています。コラールの形式は、ハリスがしばしば用いる手法の一つです。
第3楽章：対位法的構造（Contrapuntal Structure）。この楽章は、高度な対位法技法に基づいて構築されており、楽曲のクライマックスを形成します。楽章の開始部分では、6本のホルンによって主要な主題が提示されます。この主題は、楽章全体を通して発展され、重要な要素となります。ホルンによる提示に続いて管楽器群が入り、さらに弦楽器群がこの主題を受け継ぎ、複雑なテクスチャを織り成していきます。楽器間の対話と絡み合いが特徴的な楽章です。

ロイ・ハリスの交響曲第9番は、依頼者や献呈先といった背景に加え、その大規模な楽器編成と、前奏曲、コラール、対位法的構造という性格の異なる三つの楽章構成によって、作曲家の円熟期における重要な達成の一つとして位置づけられています。この作品は、20世紀アメリカの交響曲の豊かさを示す例として、今日でも研究の対象となっています。

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