京王御陵線

京王御陵線：多摩御陵への参道と、その後の高尾線への変遷

1931年（昭和6年）から1945年（昭和20年）まで、京王電気軌道（後の京王電鉄）が運行していた御陵線は、大正天皇の多摩御陵への参拝客輸送を目的として建設されました。御陵参拝ブームを背景に敷設されたものの、開通時には既に参拝客のピークは過ぎており、日常的には北野駅と多摩御陵前駅間の折り返し運転が中心でした。週末には四谷新宿（当時）からの直通運転も行われていたようです。

しかし、第二次世界大戦の激化に伴い、御陵線は1945年1月21日に不要不急線として休止されました。休止後は駅舎、線路、枕木、電柱などが順次撤去され、同年8月2日の八王子空襲では多摩御陵前駅舎が焼失するなど、甚大な被害を受けました。廃線後は線路跡は雑草が生い茂り、事実上の廃線状態となりましたが、築堤や一部の電柱、橋梁などは残存し、後の高尾線建設に転用されました。

戦後の高度経済成長期、京王帝都電鉄（当時）による宅地開発計画に伴い、アクセス路線の必要性から高尾線の建設が計画されました。御陵線の北野駅から山田駅間が、高尾線の一部として復活することとなり、1967年（昭和42年）10月1日に開業しました。残る山田駅から多摩御陵前駅間は、高尾線新設区間（山田～高尾山口間）の免許認可後の1964年（昭和39年）11月26日に正式に廃止されました。

路線データと歴史

御陵線の路線距離は6.3km、軌間は1372mm、駅数は5駅（起終点駅を含む）で、全線単線、直流600Vで電化されていました。京王線と同様の電圧でした。

歴史を振り返ると、1927年（昭和2年）12月13日に軌道特許が下り、1931年（昭和6年）3月20日に開業。1937年（昭和12年）5月1日には駅名の改称が行われ、1944年（昭和19年）5月31日には京王電気軌道が東京急行電鉄に合併されました。戦後の1948年（昭和23年）6月1日には京王帝都電鉄が分離独立し、同社の路線となりました。

北回り案と南回り案

御陵線の建設にあたっては、大きく分けて二つのルート案がありました。一つは、東八王子駅（現在の京王八王子駅）を高架化し、府立第四高等女学校（現在の東京都立南多摩中等教育学校）の西側で甲州街道を跨ぎ、浅川に沿って八王子市街地北部を経由する北回り案です。もう一つは、北野駅から分岐して片倉を経由し、国鉄中央本線と甲州街道を高架で越える南回り案です。

京王電気軌道は当初、八王子市街地の乗客獲得を目指し北回り案で軌道特許を取得していましたが、八王子市議会から市街地分断への反対や用地買収の難航により、南回り案に変更されました。人家の少ない地域を通る南回り案となったことが、後に不要不急線として廃止された要因の一つと考えられています。

駅一覧と接続路線

御陵線の駅は、北野駅、片倉駅（現在の京王片倉駅）、山田駅、武蔵横山駅、多摩御陵前駅でした。全線単線でしたが、片倉駅と武蔵横山駅には交換設備がありました。北野駅は京王線と接続していました。

廃線跡と現況

現在、北野～山田間は高尾線の用地の一部となっています。京王片倉駅付近の国道16号下り線架道橋は、御陵線開業当時のものが現在も使用されており、「昭和五年 株式會社横河橋梁製作所」の銘板が残されています。

山田～多摩御陵前間の廃線跡は、一部は農地や住宅地として転用されていますが、橋脚などの遺構がいくつか残存しています。中でも、南浅川左岸に残る2基の橋脚は、御陵線最大の遺構として知られ、NHKの番組『ブラタモリ』でも紹介されました。

多摩御陵前駅跡地は陵南公園となり、かつての駅舎や駅前広場は痕跡すら残っていません。御陵線の廃線跡は、その歴史と当時の状況を偲ばせる貴重な存在となっています。

もう一度検索