人参代往古銀

人参代往古銀（にんじんだいおうこぎん）とは

人参代往古銀は、江戸時代中期、宝永7年（1710年）から高麗人参の貿易決済専用に鋳造された秤量銀貨の一種です。単に往古銀、または人参丁銀とも呼ばれます。この銀貨の特徴は、慶長丁銀と同等の品位に復帰した点にあります。

概要

表面には「寳」の字と大黒様の図柄が刻印され、宝永四ツ宝丁銀と同じ極印が使用されました。しかし、年代を示す印はなく、品位は慶長丁銀と同等です。この銀貨は、貿易専用であり国内では通用せず、対応する小玉銀も鋳造されませんでした。

歴史

江戸時代初期、高麗人参は貴重な薬として扱われ、国内栽培ができなかったため、朝鮮半島からの輸入に頼っていました。この貿易は対馬藩が独占し、決済には良質な慶長丁銀が用いられました。しかし、元禄8年（1695年）の貨幣改鋳で品位が低下した元禄丁銀が発行された際、この情報を朝鮮側に伝えず、対価支払いには良質な慶長銀を使い続けたことで、慶長銀の確保が困難となりました。

この状況を受け、人参貿易は一時中断されました。対馬藩は2年かけて朝鮮側と交渉し、元禄12年（1699年）に、元禄銀による支払いを慶長銀の2割7分増しで決済することで合意しました。銀の含有量で換算すると2割5分増しでしたが、朝鮮側から元禄銀の品位が低いとの指摘があったため、このような取り決めになりました。

しかし、宝永3年（1706年）に丁銀の品位がさらに下げられたことで、宝永丁銀による取引も難航しました。天候不順による人参の収穫量減少も重なり、交渉は決裂し、対馬藩は再び取引中止を通告されます。そこで、対馬藩の申し出により、幕府は宝永7年（1710年）に銀座に対し、人参取引専用に慶長銀と同品位の丁銀を鋳造することを命じました。これが人参代往古銀です。「往古」とは、品位を復帰させるという意味で、これまでの元禄銀による支払いが悪質な銀貨を故意に渡していたという誤解を避けるため、対馬藩では「特鋳銀」と呼んでいました。

人参代往古銀は、すべて京都の銀座で鋳造され、佐渡、生野、石見の灰吹銀が用いられました。『銀座書留』には、宝永7年（1710年）から毎年1,417貫500匁の人参代往古銀が対馬藩に渡されたと記録されています。

その後、正徳4年（1714年）に慶長銀と同品位の正徳丁銀が発行されたことで、人参代往古銀の鋳造は中止されました。しかし、正徳3年（1713年）分の往古銀をまだ受け取っていなかった対馬藩は、正徳銀と極印が異なることが貿易に支障をきたすと訴え、正徳4年（1714年）7月に従来の往古銀を受け取りました。

元文元年（1736年）に再び品位が低下した元文丁銀が発行されると、往古銀の鋳造が再開されました。しかし、徳川吉宗による殖産興業政策が進められ、高麗人参の国内栽培が可能になったため、人参代往古銀の鋳造は徐々に衰退しました。

人参代往古銀の品位と鋳造量

人参代往古銀の規定品位は、銀80％、銅20％です。

宝永年間から正徳丁銀発行までの京都の銀座における鋳造高は、5,337貫156匁4分（約19.9トン）であり、そのうち対馬藩に渡されたのは5,197貫500匁（約19.4トン）でした。渡高の内訳は、宝永7年（1710年）が945貫、正徳元年（1711年）から3年（1713年）はそれぞれ規定額の1,417貫500匁でしたが、受け渡しは1、2年遅れるのが常でした。

公儀灰吹銀から丁銀を鋳造する場合、銀座の収入となる分一銀は、渡された灰吹銀の3％と定められていました。

参考文献

わが国の貨幣史（日本銀行・貨幣博物館）
『金融研究』巻頭エッセイ
目で見る漢方史料館（北里研究所附属東洋医学総合研究所・医史文献研究室）

関連項目

人参座
* 貿易銀

もう一度検索