人民協定

人民協定：イングランド革命における平等派の挑戦

17世紀半ばのイングランドは、清教徒革命という激動の時代を迎えていました。この革命の中で、平等派と呼ばれる勢力が台頭し、社会変革を求める声が高まりました。その象徴的な成果が、人民協定です。

人民協定（An Agreement of the People）は、平等派が起草した国政改革の提案でした。1647年の作成から1649年の議会提出まで、イングランドの政治的風景を大きく揺るがす存在となりました。しかし、議会での採択には至らず、その理想は実現を見ることなく、歴史の片隅に追いやられていくことになります。

革命期の政治的混乱と人民協定の誕生

当時、イングランド議会では長老派と独立派が対立し、軍部でも独立派と平等派の対立が激化していました。オリバー・クロムウェル率いる独立派と平等派は共同でロンドンに進軍し、長老派を圧迫しました。しかし、クロムウェルと独立派は、平等派の急進的な主張に懸念を抱いていました。

クロムウェルの側近であったヘンリー・アイアトンは、軍による政治改革を提案する建議要目を発表し、紛争の沈静化を図りました。しかし、平等派はこれを受け入れず、自らの要求をまとめた人民協定を提出。ロンドン郊外のパトニーで、両者の提案について激論が交わされました（パトニー討論）。

人民協定の内容：急進的な改革案

人民協定は、議会解散と新たな選挙の実施、選挙区改正、2年に1回の議会開催、議会の権限強化などを求めていました。これらの項目は、アイアトンの建議要目と共通する部分も多い一方、平等派の急進的な主張も色濃く反映されていました。

具体的には、自然権に基づく国民主権、法の前での平等、信仰の自由といった近代的な概念を導入。さらに、上院と王政の廃止、人口比例に基づく選挙区と議員定数の改定、普通選挙の実現といった、当時の常識を覆す大胆な提案が含まれていました。

クロムウェルとの対立と平等派の挫折

しかし、これらの提案はクロムウェルとアイアトンには受け入れられませんでした。彼らは、平等派の主張の一部には賛同しつつも、それが社会秩序の破壊と混乱につながると懸念しました。パトニー討論は平行線を辿ったまま終了。クロムウェルは平等派の弾圧に乗り出し、軍の統一を図りました。

1649年、平等派は独立派の主張を反映させた修正版人民協定を議会に提出しましたが、採択されることはありませんでした。平等派は反乱を起こそうとしましたが、クロムウェルによって鎮圧され、勢力を失っていきました。

人民協定の遺産：実現しなかった理想

人民協定は、議会で承認されることはありませんでしたが、その内容は後のイギリス政治に影響を与えました。人民協定が掲げた憲法理念、特に普通選挙などは、19世紀まで実現しませんでした。しかし、この草案は、近代民主主義の萌芽を象徴する重要な歴史的文書として、今日でも研究されています。人民協定は、近代民主主義の理想を先取りした、時代を先駆けた改革案だったと言えるでしょう。

参考文献

今井宏『クロムウェルとピューリタン革命』清水書院、1984年
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年
* 清水雅夫『王冠のないイギリス王 オリバー・クロムウェル―ピューリタン革命史』リーベル出版、2007年

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