パトニー討論

パトニー討論：イングランド共和制の岐路に立った激論

1647年10月28日、イングランド南西郊外のパトニー教会（聖メアリー教会）で、歴史に名を刻む会議が開催されました。それが、通称「パトニー討論」です。イングランド内戦（清教徒革命）後、議会派内部で対立が深まる中、イングランドの政治体制の未来を賭けた、緊迫した議論が繰り広げられました。

内戦後の混乱と対立の深まり

第一次イングランド内戦で王党派を破った議会派でしたが、勝利の余韻も束の間、長老派と独立派の対立が激化していました。さらに、独立派内部でも平等派との対立が表面化し、議会は軍の解体と独立派の追放を企てます。これに対し、独立派と平等派は利害の一致を見出し、ロンドンへ進軍して議会を威嚇。しかし、政治改革の方向性において再び対立が生じ、軍会議がパトニーで開催されることになったのです。

参加者と議論の焦点

会議には、独立派からはクロムウェル（議長、トーマス・フェアファクスは病気欠席）、ヘンリー・アイアトンらが、平等派からはジョン・ワイルドマン、トマス・レインバラ、エドワード・セクスビーらが参加。さらに、各連隊から選出された「アジテーター」と呼ばれる兵士代表も出席しました。

議論の中心はイングランドの政治構想でした。平等派は「人民協定」を提案し、王政と上院の廃止、自然権に基づく国民主権、選挙区改正と普通選挙の実施など、急進的な共和制改革を主張しました。これに対し、クロムウェルは、平等派の理想主義的な主張に疑問を呈し、社会の分裂を招くと懸念しました。アイアトンもクロムウェルの意見に一定の共感を示し、制限選挙を提案しました。

独立派と平等派：異なる立場と主張

独立派は有産階級（ジェントリ）を基盤とし、平等派は平民出身者からなるグループでした。それぞれの立場から、穏健派と急進派が混在し、議論は平行線を辿ります。クロムウェルは現実主義的な立場から、妥協案を提示。普通選挙は認めなくても、選挙権の拡大には賛成し、ヨーマンへの適用を提案するなど、平等派との合意を探りました。しかし、平等派は「人民協定」の実現に固執し、全軍集会開催まで主張しました。

クロムウェルの決断と会議の終焉

クロムウェルは、平等派の主張が軍の秩序を乱し、下剋上や分裂を招くと懸念しました。軍の上下関係と非政治化を重視するクロムウェルにとって、平等派の主張は許容できるものではありませんでした。そのため、11月8日、会議の一時停止（事実上の散会）を命令。兵士たちは上官への忠誠の誓いを求められ、アジテーターたちも所属連隊へと戻されました。

第二次内戦の勃発とクロムウェルの対応

会議が終結した直後、軟禁されていたチャールズ1世がワイト島へ脱出、スコットランドの侵攻により第二次イングランド内戦が勃発しました。平等派に扇動された兵士たちによる反乱の兆しが見え、軍は分裂の危機に瀕します。クロムウェルは迅速な対応で反乱を鎮圧し、軍の秩序を回復。内戦の勃発という事態の中、独立派と平等派の対立は一旦棚上げされ、クロムウェルはフェアファクスと共にスコットランド軍の迎撃に向かいました。

パトニー討論の意義

パトニー討論は、イングランド共和制の成立過程における重要な出来事でした。平等派の急進的な主張と、クロムウェルの現実主義的な対応、そして軍と議会の複雑な関係などが浮き彫りになり、後のイングランドの歴史に大きな影響を与えました。この会議は、理想と現実の狭間で揺れるイングランドの政治的葛藤を象徴する出来事であり、現代においても重要な歴史的考察対象となっています。

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