人民義勇軍 (ミャンマー)
人民義勇軍（PVO）は、ミャンマーの独立運動指導者アウンサンが1946年2月に組織した軍事組織です。その設立背景には、1945年9月にアウンサンと連合軍の間で締結されたキャンディ協定がありました。この協定に基づき、イギリス領ビルマ軍と日本の敗戦後に解体されたビルマ愛国軍（PBF）を統合する形で、総兵力1万2,000人のミャンマー国軍が編成されましたが、PBF出身者の採用枠はわずか5,200人に留まりました。日本軍の放逐に貢献した多くのPBF兵士が職を失い、社会不安や反政府活動に走ることを懸念したアウンサンは、彼らの受け皿として人民義勇軍（PVO）を結成したのです。
PVOの最高司令官にはアウンサン自身が就任しました。組織は国内を32の地区に分け、それぞれの地区に資金調達、新メンバー募集、軍事訓練などを担当する責任者を任命しました。階級制度や制服、階級バッジも国軍に準じたものが採用されました。当初は元PBF兵士が主な対象でしたが、組織拡大のため、各支部は学生組合や他の政治団体にも広く募集をかけるよう指示が出されました。1946年4月には、ヤンゴンで学生向けの5週間の訓練コースが実施されるなど、組織の基盤強化が進められました。
PVOに入隊した者の中には、イギリスからの独立を武力で勝ち取る覚悟を持った者が多数いたとされています。しかし、当時のイギリス領ビルマ総督レジナルド・ドーマン＝スミスは、PVOを脅威と見なしました。1940年に制定されたビルマ防衛規則を根拠に、PVOの軍事訓練、公開演習、制服着用を中止するよう警察と地区当局に命令を下しました。これに対し、各地のPVOメンバーは激しく反発。1946年5月18日には、インセイン郡区タンタビンでPVO指導者11人が逮捕されたことに抗議する1,000人以上のデモ隊に警察が発砲し、少なくとも3人が死亡、多数の負傷者が出る事件が発生しました。この事件を機に、全国で数百人ものPVOメンバーが逮捕されるに至りました。
1947年7月19日にアウンサンが暗殺されると、PVOは次第に反ファシスト人民自由連盟（AFPFL）の中央指導から離れていきました。各地の支部は、地元有力者の私兵団のような性格を強め、売春、賭博、詐欺、窃盗といった違法な経済活動に関わるようになりました。また、道路に検問所を設けて通行料を徴収するなど、半ば独立した武装勢力としての様相を呈しました。1948年1月4日のビルマ独立時には、全国で約10万人もの兵力を擁していたと言われています。
アウンサン暗殺の少し前、1947年4月に行われた制憲議会選挙では、AFPFLが圧倒的な勝利を収め、182議席中171議席を獲得しました。この当選者のうち44人がPVOのメンバーであり、ボー・ポークン、ボー・セインマン、そして「30人の同志」の一員であるボー・ムアウンの3名がウー・ヌ内閣に入閣するなど、PVOは独立後の国政において無視できない有力勢力となりました。AFPFL最大派閥であるビルマ社会党はPVOに接近し、1947年10月にはマルクス主義連盟という連立政党を結成しました。この中でPVOの武装解除が合意されましたが、PVOを率いる地方の有力者たちの抵抗により、この合意は実行されませんでした。
この頃には、PVOの内部にも共産主義思想が浸透しており、ボー・ムアウンに率いられ社会党に近い立場の「黄色PVO」と、「30人の同志」の一員であるボー・ラヤウンとボー・ポークンが率いる極左的な「白色PVO」の二つの派閥に分裂していました。PVOの兵士の多くは農村出身者であり、小作料の不払い運動や農民の負債帳消し運動に関心が高く、武力による変革を目指すビルマ共産党（CPB）や赤旗共産党に共感する者が少なくありませんでした。
1948年4月2日、CPBが政府に対する武装蜂起を開始すると、PVOは当初、政府とCPBの仲介役を試みました。これに応じたウー・ヌ首相は、同年5月25日にアウンサン・スタジアムで行われた公開討論会で、15項目からなる「左翼統一計画」を発表しました。この計画は、行政機構の民主化、土地と外国貿易の国有化、海外援助の拒否、保健・教育・福祉計画の導入など、かなり左派寄りの内容を含んでいました。特に、社会主義者、共産主義者、PVOによるマルクス主義連盟を結成し、マルクス主義の著作を広めるという提案は、国内外から強い批判を浴び、「ウー・ヌは共産主義に転向した」と非難されるほどでした。しかし、ウー・ヌが苦渋の決断で策定したこの計画も、CPBや白色PVOを納得させるには至りませんでした。そして、1948年7月28日、白色PVOはその主力部隊の約60%にあたる4,000人の兵士を引き連れて反乱を起こし、全国の白色PVO支部もこれに呼応して政府への武装闘争に突入しました。
反乱を起こした白色PVOの一部部隊は、ヤンゴン川対岸のシリアムに軍事拠点を構築しようとしましたが、国軍のフリゲート艦による砲撃を受けて撤退を余儀なくされ、ヤンゴン攻略の試みは失敗しました。しかし、白色PVOは全国各地に多数の拠点を有していたため、ピイ、ミンブー、ヤメティンといった要衝、エーヤワディー川中流域の油田地帯、ラカイン州、チン丘陵地などに広範な支配地域を築き上げました。1949年3月24日にはピイで、CPB、赤旗共産党、白色PVO、アラカン人民解放党（APLP）、革命ビルマ軍（RBA）が結集し、人民民主戦線（PDF）という統一戦線を結成しました。しかし、この統一戦線はRBAがCPBに合流したこと以外に目立った成果を上げられず、1950年5月にピイが国軍に奪還されると事実上崩壊しました。唯一、ラカイン州ではPDFが比較的機能し、ボー・サンタチョーやボー・クラフラアウンに率いられた白色PVO、CPB、APLPが1958年まで多くの郡区を支配していました。しかし、白色PVOはCPBに共感を寄せるメンバーが多かったものの、CPBが貧農を主な支持基盤としていたのに対し、白色PVOは貧農だけでなくクラークと呼ばれる富裕農民も支持基盤としていたため、両者の間に真の同盟関係が育まれることはありませんでした。
多種多様な反乱軍や少数民族武装勢力による反乱は、一種の人種的緊張を帯びる事態も招きました。例えば、国軍のカレン部隊やカチン部隊が戦闘でCPBやPVOを破ると、ビルマ族住民が怒るという倒錯した状況が発生しました。実際、1948年7月から8月にかけて社会党、国軍、白色PVO、CPBの関係者が集まって開かれた会合では、政府とCPBの停戦が議題の中心だったにも関わらず、最終的には「カレンの反乱軍は帝国主義者の手先」という結論に至るという経緯がありました。白色PVOもこの人種的緊張に加担しました。1949年1月12日には、元閣僚ボー・セインマンが率いる部隊が、ヤンゴン地方域タイチー郡区のカレン族の村を襲撃し、150人以上の村人を殺害するという事件を起こしています。同時期にインセイン郡区がカレン民族防衛機構（KNDO）に占拠された際は、政府側に再度寝返った白色PVOの部隊が「カレン族の肉を食べたい！」と叫びながらヤンゴンに進軍してくるという凄惨な出来事もありました。KNDOは6月にインセイン郡区から撤退しましたが、その直後、ピイのPDF本部に使者を派遣して統一戦線について協議した際、CPB議長タキン・タントゥンがカレン民族同盟（KNU）を「帝国主義の走狗」、KNUリーダーのソー・バウジーを「帝国主義の従僕」と激しく非難したため、連携は実現しませんでした。この時、CPB、PVO、赤旗共産党が合同でヤンゴンを攻撃していれば、ヤンゴン占領も可能だったとも言われています。
白色PVO部隊の司令官たちは、教育水準が高く、独立運動の功労者でもあったため、地元では広く尊敬されていました。また、同じビルマ族であることから、国軍も彼らに対して大規模な攻撃を仕掛けることは稀でした。例えば、PVO司令官の一人であるボー・ガマニは、カレン民族同盟に対抗してAFPFLを支援し、1956年に部下とともに降伏するまで、ヤンゴンからわずか10マイルのインセイン郡区で比較的自由に活動していました。
1958年、ウー・ヌ首相は、議会でのバースエ/ニェイン派による内閣不信任案を否決するために、左翼系諸派連合である国民統一戦線（NUF）の協力を仰ぎました。その見返りとして、ウー・ヌは全国の反乱軍に対して恩赦を発布しました。これに応じ、白色PVOからは約700人の兵士が政府に投降しました。投降した白色PVOのメンバーは、直ちに人民同志党（PCP）という政党を結成し、ボー・ポークンがその党首となりました。彼らはミャンマーが「帝国主義者の脅威にさらされている」と主張し、共産主義国家を目指す闘争を続けることを誓いましたが、PCPが政治的に大きな成果を上げることはありませんでした。一方で、ボー・ラヤウン、ボー・ポークン、PVO総司令官であったボー・テインリンといったPVOの幹部の中には、後のビルマ連邦革命評議会に関与した者もおり、ボー・ラヤウンは貿易省で活躍し、ボー・ポークンは駐タイ大使に任命されるなど、政府内で一定の地位を得る者も現れました。
一方、黄色PVOのリーダーであったボー・ムアウンは、ウー・ヌが結成した議会制民主主義党に参加しました。さらに、1988年の8888民主化運動の際には、ウー・ヌが設立した民主平和連盟（LDP）にも参加しています。同じ8888民主化運動の時期には、元PVO兵士であったボー・ニュンマウン、ボー・アウンナイン、ボー・オンティンらが再びPVOを組織するなど、その名前が再び表舞台に現れる動きも見られました。
PVOの最高司令官にはアウンサン自身が就任しました。組織は国内を32の地区に分け、それぞれの地区に資金調達、新メンバー募集、軍事訓練などを担当する責任者を任命しました。階級制度や制服、階級バッジも国軍に準じたものが採用されました。当初は元PBF兵士が主な対象でしたが、組織拡大のため、各支部は学生組合や他の政治団体にも広く募集をかけるよう指示が出されました。1946年4月には、ヤンゴンで学生向けの5週間の訓練コースが実施されるなど、組織の基盤強化が進められました。
PVOに入隊した者の中には、イギリスからの独立を武力で勝ち取る覚悟を持った者が多数いたとされています。しかし、当時のイギリス領ビルマ総督レジナルド・ドーマン＝スミスは、PVOを脅威と見なしました。1940年に制定されたビルマ防衛規則を根拠に、PVOの軍事訓練、公開演習、制服着用を中止するよう警察と地区当局に命令を下しました。これに対し、各地のPVOメンバーは激しく反発。1946年5月18日には、インセイン郡区タンタビンでPVO指導者11人が逮捕されたことに抗議する1,000人以上のデモ隊に警察が発砲し、少なくとも3人が死亡、多数の負傷者が出る事件が発生しました。この事件を機に、全国で数百人ものPVOメンバーが逮捕されるに至りました。
1947年7月19日にアウンサンが暗殺されると、PVOは次第に反ファシスト人民自由連盟（AFPFL）の中央指導から離れていきました。各地の支部は、地元有力者の私兵団のような性格を強め、売春、賭博、詐欺、窃盗といった違法な経済活動に関わるようになりました。また、道路に検問所を設けて通行料を徴収するなど、半ば独立した武装勢力としての様相を呈しました。1948年1月4日のビルマ独立時には、全国で約10万人もの兵力を擁していたと言われています。
アウンサン暗殺の少し前、1947年4月に行われた制憲議会選挙では、AFPFLが圧倒的な勝利を収め、182議席中171議席を獲得しました。この当選者のうち44人がPVOのメンバーであり、ボー・ポークン、ボー・セインマン、そして「30人の同志」の一員であるボー・ムアウンの3名がウー・ヌ内閣に入閣するなど、PVOは独立後の国政において無視できない有力勢力となりました。AFPFL最大派閥であるビルマ社会党はPVOに接近し、1947年10月にはマルクス主義連盟という連立政党を結成しました。この中でPVOの武装解除が合意されましたが、PVOを率いる地方の有力者たちの抵抗により、この合意は実行されませんでした。
この頃には、PVOの内部にも共産主義思想が浸透しており、ボー・ムアウンに率いられ社会党に近い立場の「黄色PVO」と、「30人の同志」の一員であるボー・ラヤウンとボー・ポークンが率いる極左的な「白色PVO」の二つの派閥に分裂していました。PVOの兵士の多くは農村出身者であり、小作料の不払い運動や農民の負債帳消し運動に関心が高く、武力による変革を目指すビルマ共産党（CPB）や赤旗共産党に共感する者が少なくありませんでした。
1948年4月2日、CPBが政府に対する武装蜂起を開始すると、PVOは当初、政府とCPBの仲介役を試みました。これに応じたウー・ヌ首相は、同年5月25日にアウンサン・スタジアムで行われた公開討論会で、15項目からなる「左翼統一計画」を発表しました。この計画は、行政機構の民主化、土地と外国貿易の国有化、海外援助の拒否、保健・教育・福祉計画の導入など、かなり左派寄りの内容を含んでいました。特に、社会主義者、共産主義者、PVOによるマルクス主義連盟を結成し、マルクス主義の著作を広めるという提案は、国内外から強い批判を浴び、「ウー・ヌは共産主義に転向した」と非難されるほどでした。しかし、ウー・ヌが苦渋の決断で策定したこの計画も、CPBや白色PVOを納得させるには至りませんでした。そして、1948年7月28日、白色PVOはその主力部隊の約60%にあたる4,000人の兵士を引き連れて反乱を起こし、全国の白色PVO支部もこれに呼応して政府への武装闘争に突入しました。
反乱を起こした白色PVOの一部部隊は、ヤンゴン川対岸のシリアムに軍事拠点を構築しようとしましたが、国軍のフリゲート艦による砲撃を受けて撤退を余儀なくされ、ヤンゴン攻略の試みは失敗しました。しかし、白色PVOは全国各地に多数の拠点を有していたため、ピイ、ミンブー、ヤメティンといった要衝、エーヤワディー川中流域の油田地帯、ラカイン州、チン丘陵地などに広範な支配地域を築き上げました。1949年3月24日にはピイで、CPB、赤旗共産党、白色PVO、アラカン人民解放党（APLP）、革命ビルマ軍（RBA）が結集し、人民民主戦線（PDF）という統一戦線を結成しました。しかし、この統一戦線はRBAがCPBに合流したこと以外に目立った成果を上げられず、1950年5月にピイが国軍に奪還されると事実上崩壊しました。唯一、ラカイン州ではPDFが比較的機能し、ボー・サンタチョーやボー・クラフラアウンに率いられた白色PVO、CPB、APLPが1958年まで多くの郡区を支配していました。しかし、白色PVOはCPBに共感を寄せるメンバーが多かったものの、CPBが貧農を主な支持基盤としていたのに対し、白色PVOは貧農だけでなくクラークと呼ばれる富裕農民も支持基盤としていたため、両者の間に真の同盟関係が育まれることはありませんでした。
多種多様な反乱軍や少数民族武装勢力による反乱は、一種の人種的緊張を帯びる事態も招きました。例えば、国軍のカレン部隊やカチン部隊が戦闘でCPBやPVOを破ると、ビルマ族住民が怒るという倒錯した状況が発生しました。実際、1948年7月から8月にかけて社会党、国軍、白色PVO、CPBの関係者が集まって開かれた会合では、政府とCPBの停戦が議題の中心だったにも関わらず、最終的には「カレンの反乱軍は帝国主義者の手先」という結論に至るという経緯がありました。白色PVOもこの人種的緊張に加担しました。1949年1月12日には、元閣僚ボー・セインマンが率いる部隊が、ヤンゴン地方域タイチー郡区のカレン族の村を襲撃し、150人以上の村人を殺害するという事件を起こしています。同時期にインセイン郡区がカレン民族防衛機構（KNDO）に占拠された際は、政府側に再度寝返った白色PVOの部隊が「カレン族の肉を食べたい！」と叫びながらヤンゴンに進軍してくるという凄惨な出来事もありました。KNDOは6月にインセイン郡区から撤退しましたが、その直後、ピイのPDF本部に使者を派遣して統一戦線について協議した際、CPB議長タキン・タントゥンがカレン民族同盟（KNU）を「帝国主義の走狗」、KNUリーダーのソー・バウジーを「帝国主義の従僕」と激しく非難したため、連携は実現しませんでした。この時、CPB、PVO、赤旗共産党が合同でヤンゴンを攻撃していれば、ヤンゴン占領も可能だったとも言われています。
白色PVO部隊の司令官たちは、教育水準が高く、独立運動の功労者でもあったため、地元では広く尊敬されていました。また、同じビルマ族であることから、国軍も彼らに対して大規模な攻撃を仕掛けることは稀でした。例えば、PVO司令官の一人であるボー・ガマニは、カレン民族同盟に対抗してAFPFLを支援し、1956年に部下とともに降伏するまで、ヤンゴンからわずか10マイルのインセイン郡区で比較的自由に活動していました。
1958年、ウー・ヌ首相は、議会でのバースエ/ニェイン派による内閣不信任案を否決するために、左翼系諸派連合である国民統一戦線（NUF）の協力を仰ぎました。その見返りとして、ウー・ヌは全国の反乱軍に対して恩赦を発布しました。これに応じ、白色PVOからは約700人の兵士が政府に投降しました。投降した白色PVOのメンバーは、直ちに人民同志党（PCP）という政党を結成し、ボー・ポークンがその党首となりました。彼らはミャンマーが「帝国主義者の脅威にさらされている」と主張し、共産主義国家を目指す闘争を続けることを誓いましたが、PCPが政治的に大きな成果を上げることはありませんでした。一方で、ボー・ラヤウン、ボー・ポークン、PVO総司令官であったボー・テインリンといったPVOの幹部の中には、後のビルマ連邦革命評議会に関与した者もおり、ボー・ラヤウンは貿易省で活躍し、ボー・ポークンは駐タイ大使に任命されるなど、政府内で一定の地位を得る者も現れました。
一方、黄色PVOのリーダーであったボー・ムアウンは、ウー・ヌが結成した議会制民主主義党に参加しました。さらに、1988年の8888民主化運動の際には、ウー・ヌが設立した民主平和連盟（LDP）にも参加しています。同じ8888民主化運動の時期には、元PVO兵士であったボー・ニュンマウン、ボー・アウンナイン、ボー・オンティンらが再びPVOを組織するなど、その名前が再び表舞台に現れる動きも見られました。
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