人生フルーツ

『人生フルーツ』は、もともと2016年3月20日に東海テレビ放送で放送されたテレビドキュメンタリー番組であり、その高い評価を受けて、翌2017年には劇場用映画として公開された作品です。テレビ放送時には『人生フルーツ ある建築家と雑木林のものがたり』というタイトルが冠されていました。

テレビ放送版は、ドキュメンタリーとしての完成度が高く、その年の数々の賞を受賞しました。具体的には、平成28年度（第71回）文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門で大賞を受賞したのをはじめ、第42回放送文化基金賞番組部門の最優秀賞、平成28年日本民間放送連盟賞テレビ教養番組部門の優秀賞、第12回日本放送文化大賞テレビ部門のグランプリなど、権威ある賞に輝きました。さらに、第53回ギャラクシー賞テレビ部門選奨や、第36回「地方の時代」映像祭選奨も受賞しています。

テレビ版の大きな反響を受けて、東海テレビが手がけるドキュメンタリー映画シリーズの第10弾として、劇場公開が決定しました。劇場版もまた批評家や観客から高く評価され、2017年の第91回キネマ旬報ベスト・テンでは文化映画部門の第1位に選ばれました。その他にも、第32回高崎映画祭でホリゾント賞を受賞したり、平成29年度文化庁映画賞の文化記録映画部門で優秀賞を獲得するなど、劇場公開後も多くの栄誉に浴しました。

この作品の中心にあるのは、愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンに暮らす、当時90歳だった建築家・津端修一さんと、その妻である英子さんの豊かな生活です。彼らの住む家は、修一氏が尊敬する建築家アントニン・レーモンドの自邸に倣って建てられた、30畳一間の平屋建ての丸太小屋です。敷地内の庭は彼らの手によって耕され、季節ごとに様々な野菜や果物が育てられています。英子さんは、そこで採れた新鮮な食材を使って、愛情込めた手料理を修一氏に振る舞います。二人の暮らしは、まさに自然と共生する、丁寧な日々そのものです。

興味深いのは、修一氏の経歴です。高度経済成長期の1960年代、彼は日本住宅公団のメンバーとして、この高蔵寺ニュータウンの基本的な設計に携わっていました。当時、修一氏は自然と調和した理想的なニュータウンを目指していましたが、実際に完成したのは、彼の理想とはかけ離れた無機質で大規模な団地でした。皮肉なことに、その場所に今、修一氏と英子さんは、自分たちの手で育てた木々に囲まれ、かつて思い描いたような自然溢れる豊かな生活を営んでいるのです。

物語の中では、修一氏が佐賀県伊万里市にある医療福祉施設から設計の依頼を受け、これを無償で引き受けるエピソードも描かれます。これが、彼にとって文字通りの「最後の仕事」となりました。そして、2015年6月のある穏やかな昼下がり、昼寝をしていた修一氏は、そのまま静かに息を引き取ります。深い悲しみに暮れる英子さんですが、涙を流しながらも、夫のもとへすぐ行くと語りかける姿は、二人の強い絆と、来るべき別離をも受け入れるかのような、静かで力強いメッセージを伝えています。

『人生フルーツ』は、単に老夫婦の日常を追った記録ではありません。それは、現代社会においてしばしば見失われがちな、本当の「豊かさ」とは何か、いかに生きるべきか、という問いを静かに投げかけます。自然と共に生きること、小さな喜びを見つけること、そして愛する人と共に歩むこと。二人の飾らない言葉や日々の営みの中に、生きる上で大切なヒントや、人生の終末に対する静かな受容の姿勢が示されており、観る者に深い感動と共感を呼び起こす作品です。

もう一度検索