人間ども集まれ!

手塚治虫のSF漫画『人間ども集まれ!』：人間の傲慢さと無性人間の反乱

手塚治虫の長編SF漫画『人間ども集まれ!』は、1967年1月から1968年7月まで『週刊漫画サンデー』に連載され、その後大幅な修正を経て単行本化されました。カレル・チャペックの『山椒魚戦争』をヒントに、人間の奴隷として創造された「無性人間」の反乱を描いた本作は、少年誌・少女誌中心だった手塚治虫のキャリアにおいて、大人向け作品として異彩を放っています。

独特の画風と大人向けの世界観

連載当時の掲載誌の性格を反映し、『人間ども集まれ!』は、それまでの手塚作品とは異なる簡略化されたタッチで描かれています。すべて手描きの文字も、単行本化の際に写植文字に置き換えられました。手塚自身も、この画風について「子ども向けのごちゃごちゃしたペンタッチから抜け出したかった」と述べています。漫画コラムニストの夏目房之介は、この大人漫画風の作風について、残酷描写や性的描写を「それほどシリアスでなく描けること」を理由として指摘しています。

複雑な物語と異なる結末

物語は、パイパニア戦争に巻き込まれた自衛隊員・天下太平と軍医・大伴黒主が、軍用医学研究所で無性人間の創造計画に遭遇するところから始まります。太平の特殊な精子と女囚の卵子から生まれた無性人間たちは、働きアリのような性質を持ち、命令に絶対服従する集団です。

その後、無性人間を利用した戦争ショーを企む木座神明と手を組んだ大伴は、独立国「太平天国」を建国。太平は、無性人間の父親として、その運命に翻弄されていきます。太平天国では無性人間が大量生産され、世界中に輸出され兵士として利用されるようになります。

連載版では、最終的に起性手術によって無性人間が有性となり、人類は滅亡を免れるハッピーエンドでしたが、単行本版では、無性人間による反乱が成功し、人間が去勢され、無性人間の奴隷となるアンハッピーエンドへと改変されています。この結末変更の理由については、手塚自身の「カレル・チャペックの『山椒魚戦争』のラストに感銘を受けた」という発言や、担当編集者の意見への反発、当時の社会情勢（臓器移植に対する関心の高まりや和田心臓移植事件など）が影響したという様々な説があります。

登場人物たちの複雑な関係性

本作には、数多くの個性的な登場人物が登場します。主人公の天下太平は、無性人間を産み出した父親として、葛藤を抱えながら生き抜きます。冷酷な大伴黒主、野心的な木座神明、そして無性人間たちのリーダーとなる未来など、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、物語を盛り上げます。

中でも、太平の妻であるリラは、ゲリラとして戦い、太平と共に無性人間の誕生に関わり、そして悲劇的な最期を迎える重要な人物です。無性人間第一号である未来は、リラの死をきっかけに復讐を開始し、最終的には無性人間の反乱を主導します。

社会風刺とSF的想像力の融合

『人間ども集まれ!』は、単なるSF漫画にとどまらず、戦争、優生思想、人間の傲慢さといった社会問題を鋭く風刺しています。無性人間という架空の存在を通して、人間の倫理や道徳、そして未来への不安を問いかける作品と言えるでしょう。手塚治虫の深い洞察力と豊かな想像力が凝縮された、後世に残る名作として評価されています。

舞台化や書籍化

『人間ども集まれ!』は、これまでに何度も舞台化されており、異なる解釈や演出で、読者・観客に新たな感動を与え続けています。また、単行本は様々な出版社から出版されており、連載版と単行本版の違いを比較検討することもできます。現在でも多くの読者に愛され、読み継がれる作品です。

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