人食い犬

ナザレス / 人食い犬 (Hair of the Dog)

1975年にリリースされたナザレスの通算6枚目のスタジオアルバム、『人食い犬』（原題：Hair of the Dog）は、このスコットランドのハードロックバンドにとって決定的な作品として位置づけられています。このアルバムは彼らのキャリアにおいて初の大きな商業的成功を収め、バンド史上最高の売上となる200万枚超を記録し、彼らの代表作として広く認識されています。

制作体制は、前3作でプロデューサーを務めたディープ・パープルのロジャー・グローヴァーから、バンドのギタリストでもあるマニー・チャールトンに引き継がれました。チャールトンはこの後もナザレスの多くの作品でプロデュースを手がけることになります。アルバムの主要なレコーディングはイギリスのケントにあるエスケープ・スタジオで行われ、追加の収録とミキシングはロンドンのAIRスタジオにて実施されました。

本作がリリースされるまで、ナザレスは一定の評価を得ていたものの、商業的な大成功には恵まれていませんでした。前作『ラザマナズ』が小ヒットにとどまったのに対し、『人食い犬』は彼らにとって初めての大ブレイクをもたらしました。アルバムには、強烈なタイトルチューン「人食い犬」、アメリカ盤に収録され後に世界的なヒットとなったバラード「ラヴ・ハーツ」、そして「ベガーズ・デイ」、「うらぎり」といった、今なお愛されるバンドの代表的な楽曲が多数収められています。

アルバムタイトルの由来には興味深い逸話があります。バンドのフロントマンであるダン・マッカファーティーは、当初、アルバムに『Son of a Bitch』というタイトルをつけたいと考えていました。これは、タイトル曲「人食い犬」のコーラス部分に含まれる「now you’re messing with a… a son of a bitch!」というフレーズに由来するものでした。しかし、当時のレコード会社は、『Son of a Bitch』という過激なタイトルを承認しませんでした。そのため、代替案として選ばれたのが『Hair of the Dog』です。このタイトルは、「son of a bitch」と「heir of the dog」（犬の子孫）という言葉遊びを含んでおり、単に「the hair of the dog that bit you」（二日酔いには迎え酒）を縮めたものだと誤解されがちですが、実際にはより複雑な意味合いを持っています。このタイトル選定の経緯もまた、この名盤のユニークな背景を物語っています。

音楽的には、ヘヴィーなギターリフとダン・マッカファーティーの力強いヴォーカルが前面に出た、彼らが得意とするハードロックサウンドが展開されています。特にタイトル曲で聴けるトーキング・モジュレーターを使ったギターサウンドは印象的です。また、ランディ・ニューマン作の「ギルティー」やブライアント夫妻作の「ラヴ・ハーツ」といった外部ソングライターによる楽曲も収録されており、バラエティ豊かな構成となっています。バンドメンバーに加え、マックス・ミドルトン（ピアノ）、サイモン・フィリップス（タブラ）、そして複数のコーラスシンガーがゲスト参加し、楽曲に深みを与えています。

このアルバムは長年にわたり多くのリスナーに支持され続け、1990年代中頃にはボーナストラックを追加収録したCDリマスター盤もリリースされています。

収録曲

特記なき楽曲の作曲・作詞は、マニー・チャールトン、ダン・マッカファーティー、ピート・アグニュー、ダレル・スウィートによる。

1. 人食い犬 (Hair of the Dog) – 4:11
2. ミス・ミザリー (Miss Misery) – 4:40
3. ギルティー (Guilty) – 3:38 (作曲・作詞: ランディ・ニューマン)
4. チェンジン・タイムス (Changin' Times) – 6:03
5. ベガーズ・デイ～荒野のバラ (a: Beggars Day / b: Rose In The Heather) – 6:31 (作詞・作曲: ニルス・ロフグレン (a))
6. ウィスキー・ドリンキン・ウーマン (Whiskey Drinkin' Woman) – 5:29
7. うらぎり (Please Don't Judas Me) – 9:48
8. ラヴ・ハーツ (Love Hurts) – 3:53 (作曲・作詞: ブライアント夫妻)

クレジット

バンドメンバー

ダン・マッカファーティー – リードヴォーカル、トーキング・モジュレーター (人食い犬)
マニー・チャールトン – ギター、シンセサイザー
ピート・アグニュー – ベースギター、コーラス
ダレル・スウィート – ドラム、コーラス

追加ミュージシャン

マックス・ミドルトン – ピアノ (ギルティー)
サイモン・フィリップス – タブラ (うらぎり)
ヴィッキー・ブラウン、ライザ・ストライク、バリー・セント・ジョン – コーラス (ギルティー)
ヴィッキー・シルバ – コーラス (うらぎり)

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