什 (会津藩)

什（じゅう）：会津藩の教育システム

什とは、江戸時代の会津藩において、藩士の子弟を対象とした教育組織のことです。薩摩藩の「郷中」と並び、武士道の精神を育む独自の教育システムとして知られています。

什の概要

会津藩では、藩士の子弟は6歳になると「什」に所属しました。什は毎日午後から、当番の家に集まり、教育と遊びを通して学びました。最年長である9歳の子供が「什長」となり、リーダーシップを発揮しました。

什長は、子供たちに「什の掟」を教え、その遵守を徹底させました。掟に違反した者には、「無念」「竹篦（しっぺい）」「派切り」といった罰が与えられました。

無念: 皆の前で過ちを認め、謝罪する。
竹篦: 手加減なしの厳しい体罰。冬には裸足で川を渡らせたり、雪に埋めたりすることもあった。
派切り: 最も重い罰で、仲間外れにされる。復帰には、父や兄と共に什長に謝罪し、仲間からの許しを得る必要があった。

掟の学習後には、屋外で夕方まで一緒に遊び、親睦を深めました。

什の掟

什の掟は、会津藩の教育理念を象徴するもので、以下の条項からなります。

1. 年長者の言うことに背いてはならない。
2. 年長者には御辞儀をしなければならない。
3. 嘘をついてはならない。
4. 卑怯なことをしてはならない。
5. 弱い者をいじめてはならない。
6. 戸を粗末にしてはならない。
7. 物を粗末にしてはならない。
8. 欲張ってはならない。
9. 喧嘩をしてはならない。
10. ならぬことはならぬものです。

特に最後の一節「ならぬことはならぬものです」は、会津藩の厳格な倫理観を表す言葉として広く知られています。ただし、最も重要なのは第1条と第2条であり、年長者への敬意と上下関係を重んじる思想が根底にありました。

什の掟の影響

什の掟は、藤原正彦の著書『国家の品格』で紹介されたことや、会津出身の元衆議院議員・渡部恒三が度々引用したことから、全国的に知られるようになりました。いじめ問題が深刻化する現代において、テレビドラマ『白虎隊』などで取り上げられ、教育関係者からも注目を集めています。

会津若松市では、什の掟の現代版として「あいづっこ宣言」を策定し、その精神を継承しています。また、福島県では「ならぬものは――」を引用した「NN運動」が展開され、道徳教育の推進に貢献しています。

まとめ

什は、会津藩独自の教育システムであり、子供たちが共同生活を通して道徳や社会性を学ぶ場でした。厳しい掟と連帯責任の中で、会津藩士の子弟は成長しました。現代においても、その教育理念は示唆に富み、道徳教育のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

参考文献
野口信一『会津藩』現代書館〈シリーズ藩物語〉、2005年6月15日。ISBN 4-7684-7102-1

関連項目
郷中
八重の桜
ゼロ・トレランス教育

外部リンク
什の掟―じゅうのおきて（ならぬことはならぬものです） - 會津藩校 日新館
コラム：会津藩の子の基本「什の掟」｜八重が学んだ「精神」 - 八重のふるさと、福島県（福島県観光交流局）
「あいづっこ宣言」 【トップページ】 - 会津若松市
* NN運動メニュー - 会津若松西ロータリークラブ

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