仁宗 (高麗王)

高麗 仁宗（じんそう）

高麗王朝の第17代国王（1109年 - 1146年）。諱は楷、諡号は克安恭孝大王と追贈されました。父は第16代国王・睿宗、母は順徳王后李氏であり、その第一王子として誕生しました。

李資謙の専横と即位

仁宗の治世は、母方の祖父である李資謙の強大な権力によって幕を開けます。わずか6歳であった1115年、李資謙の推挙を受けて太子に冊封されました。そして1122年、父王の崩御に伴い、李資謙の後ろ盾のもとで13歳にして王位に就きます。

李資謙は自身の権勢をさらに揺るぎないものとするため、自らの娘であり仁宗の母の妹にあたる女性（仁宗にとっては叔母）を、仁宗の妃として迎えさせ、王后に冊立しました。これにより、李資謙は外孫であると同時に義理の息子でもある仁宗に対し、二重の血縁関係を利用した支配構造を築こうと試みました。この異様な関係の中で、仁宗は外祖父である李資謙と対立を深めることになります。

危機感を抱いた李資謙は、自身の意に沿わない仁宗を毒殺しようと画策します。彼は娘である王后に毒を盛った餅を渡して実行を命じましたが、王后は夫であり甥でもある仁宗にこの企てを全て打ち明け、その命を救いました。しかし、この行為の結果、王后は李資謙によって廃位され、都を追放されることとなります。

それでも李資謙の権勢は衰えず、彼は次に自身の別の娘、先の廃妃の妹にあたる女性（仁宗の叔母）を再び仁宗の王后に迎えさせました。李資謙は国王の義父という立場を利用して、その権威を笠に着た専横を躊躇なく続けました。

李資謙の乱と鎮圧

1126年、ついに李資謙は公然と反乱を起こし、国王である仁宗の排除を図りました。しかし、この時もまた、新たに迎えられた王后が夫を救うための機転を利かせたことで、反乱は鎮圧に向かいます。李資謙は計画の失敗により、全ての権力、財産、官爵を剥奪され、国王毒殺未遂の嫌疑をかけられて遠方の霊光郡へと流刑となりました。こうして李資謙による専横は終焉を迎えましたが、夫である仁宗を救うために奔走した王后は、皮肉にも姉と同じく廃妃の憂き目に遭いました。

治世の取り組み

李資謙の脅威が去った後、仁宗は国の立て直しと安定に力を注ぎます。

教育の振興: 1127年には、国の未来を担う人材育成のため、地方の州や県に学校を設立するなど、教育制度の充実に力を入れました。
妙清の乱: 治世後半の1135年には、西京（現在の平壌）への遷都と、皇帝号の使用や年号の制定などを主張する僧侶・妙清らの動きが発端となり、「妙清の乱」が発生しました。仁宗はこれに対し、後に『三国史記』の編纂で名を馳せる金富軾を総司令官として任命し、反乱を平定させました。これは、保守的な開京の文臣勢力が、革新的な妙清らの勢力を抑え込んだ歴史的な出来事となりました。
* 外交・交易: 北方の金王朝や南方の宋王朝との外交関係を維持し、交易にも関心を払うなど、対外的な安定にも努めました。

『三国史記』編纂と崩御

文化面では、朝鮮半島の歴史叙述に大きな足跡を残しました。1145年、仁宗は金富軾に対し、古代朝鮮三国の歴史を記した『三国史記』の編纂を命じます。これは現存する朝鮮最古の歴史書として極めて重要な文献となりました。しかし、仁宗自身はその完成を見ることなく、翌1146年に37歳で崩御しました。24年間の治世でした。彼の陵墓は開城にあり、長陵と呼ばれています。

仁宗には、李資謙の娘である二人の廃妃のほか、恭睿王后任氏、宣平王后金氏が后妃としていました。恭睿王后との間には、後に王位に就く毅宗、明宗、神宗をはじめ、多くの王子・王女が誕生し、高麗王室の系譜を繋いでいきました。

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