仁科熊彦

仁科熊彦（にしな くまひこ）

生涯

仁科熊彦は、1896年1月1日に熊本県で生まれました。両親は会津藩藩士の家系で、父の赴任地である熊本で誕生。その後、福岡県門司や神奈川県小田原で育ち、中学3年の時に会津へ戻りました。1916年に福島県立会津中学校を卒業後、早稲田大学を目指して上京しましたが、予備校に通うのみで学業を放棄。天然色活動写真巣鴨撮影所の現像場に就職し、技術部で撮影助手としてキャリアをスタートさせます。この頃、同社には三浦光雄、三木茂、杉山公平、片岡清、青島順一郎などが在籍していました。1919年には同撮影所が国際活映に経営が移ります。

1923年に関東大震災が発生し、国際活映の経営が傾いたため、小西商会に入社。1924年、28歳で東亜キネマ甲陽撮影所監督部に入社。同年、マキノ省三の誘いによりマキノ・プロダクションに移籍し、映画監督としての道を歩み始めました。初監督作品は、1924年11月7日公開の『或る兄弟と城主』です。その後、東亜キネマとマキノ・プロダクションの分裂に伴い、東亜キネマに残留。高木新平や団徳麿の主演作品を手がけ、1926年には山上伊太郎のデビュー作『帰って来た英雄』を演出。また、松竹・日活・帝キネとの競作となった沼田蔵六原作の『悲恋心中ヶ丘』を東亜キネマから発表しました。

1928年、日活から東亜キネマに移籍した俳優の隼秀人を主演に迎えた『慶安妖飛録』を監督。1929年には女優の岡島艶子と結婚。1930年には正月映画『維新鉄仮面 第一篇』で監督業に復帰し、オールスター大作『天狗騒動記』の演出チームにも参加しました。同年、助監督であった山中貞雄の脚本を採用した『右門捕物帖 六番手柄』を監督しています。1931年には嵐寛寿郎の独立に伴い、山中貞雄と共に「嵐寛寿郎プロダクション」に移籍し、「右門シリーズ」の制作に携わりました。

1987年4月10日、京都市右京区の自宅で91歳で亡くなりました。

人物・エピソード

妻の岡島艶子との間に3女をもうけました。娘婿には俳優の川谷拓三がおり、仁科姓を継いでいます。孫には俳優の仁科貴と仁科扶紀がいます。

マキノ省三との関係

仁科は元々技術畑の出身でしたが、マキノ省三に監督を命じられました。仁科自身は、マキノが「一ヌケ二スジ」、すなわち「まず画面が鮮明であること、次に物語の筋が重要である」という映画哲学を持っていたからだと述べています。マキノは、仁科の監督昇進祝いに大金が入った鞄を渡そうとしたというエピソードも残っており、仁科はマキノの太っ腹な人柄に感銘を受けたと語っています。

山中貞雄との関係

東亜キネマ時代に、嵐寛寿郎の入社とともに山中貞雄が助監督として加わりました。当時の映画監督たちが活動弁士に反感を抱いていた中、仁科は「自分の作品は字幕と音楽だけで理解できる」という信念を持っていました。その考えは山中貞雄にも大きな影響を与えました。仁科は、山中貞雄に「洋画をよく観て、カッティングを勉強する」よう教え、「パンする時は止めるカットの方が重要」という山中の美学は仁科から学んだものです。仁科は、山中貞雄の才能を高く評価しており、その早すぎる死を惜しんでいます。

仁科は、「嵐寛寿郎という役者に出会って山中貞雄という才能は開花した」と語り、山中脚本の最高傑作は『むっつり右門』と『なりひら小僧』であると述べています。また、アラカンと山中の『抱寝の長脇差』以前の関係が山中貞雄研究で語られていないことを指摘しています。仁科自身は、「ベスト・テンをとり損ねたので忘れられた」と語っています。また、仁科が『鞍馬天狗』を撮らなかったことが、嵐寛寿郎との喧嘩の原因になったとも言われています。

主なフィルモグラフィ

東亜キネマ時代

1924年：『或る兄弟と城主』
1925年：『悲しき仇討』、『闘争の後』、『白痴の唄』、『白面鬼』、『罪に立つ女』、『天国への道』、『和蘭蛇屋敷』前・中・後篇
1926年：『男一匹』、『帰って来た英雄』前・後篇、『心中紅小袖』、『荒熊大八』、『悲恋心中ケ丘』前後篇、『蘭闘秘話』前・後篇、『逆風』、『地獄ケ原の殺陣』
1927年：『猛者』、『梅の由兵衛』、『倉橋伝助』、『血桜峠』、『男気』、『怪魔鬼行』、『仇討』、『観音丹次』
1928年：『恋舞刃』、『阪東侠客陣』第一・中・最終篇、『慶安妖飛録』、『姐妃のお百』
1929年：『唐人蝙蝠伝』、『笠の権三』、『君恋し』
1930年：『維新鉄仮面 第一篇』、『天狗騒動記』、『忍術行進曲』、『右門捕物帖 六番手柄』、『蝙蝠安』、『薩摩歌』、『なりひら小僧』、『右門捕物帖 十番手柄』、『明治新年間諜往来』
1931年：『続業平小僧 怒濤篇』、『右門捕物帖 十六番手柄』

嵐寛寿郎プロダクション時代

1931年：『都一番風流男』、『強羅三平 お江戸放浪記』、『右門捕物帖 十八番手柄』、『清水次郎長』、『戸並長八郎』、『右門捕物帖 二十番手柄』、『柳生十兵衛』
1932年：『江戸育ち なりひら小僧』、『右門捕物帖廿五番手柄 七十七なぞの橙』

富国映画社

1932年：『女優奈々子の裁判』、『嘆きの女間諜』

赤沢映画

1932年：『新戦場』

宝塚キネマ時代

1933年：『人類の道』、『紅騎二番隊』、『侠艶竜虎の渦』、『巷説どくろ頭巾』、『風流やくざ節』前・後篇、『艶姿影法師 陽炎篇』
1934年：『艶姿影法師 蒼窓篇』、『魔刃紅蜥蝪』

極東映画時代

1935年：『益満休之助 比叡の巻』、『荒木又右衛門』、『木曾しぐれ三度笠』、『月形半平太』、『関口武勇伝』、『伊達誠忠録』、『忍術真田十勇士』

第二次嵐寛寿郎プロダクション時代

1936年：『梅桜肥後の駒下駄』、『日本晴甲州街道』、『右門捕物帖 娘傀儡師』、『御存知鞍馬天狗 宗十郎頭巾』、『開化悲聞 男の道』、『右門捕物帖 雪夜の謎』
1937年：『国訛道中笠』、『べらんめえ十万石』、『旅の風来坊』、『御存知鞍馬天狗 千両小判』、『盗人厩』、『人情百万両』

新興キネマ時代

1938年：『柳生二蓋流』、『歌吉行燈』、『一休さん』、『怪談濡衣草紙』、『烈女競艶録』、『肥後の駒下駄』
1939年：『伊達大評定』、『忠孝小笠原狐』、『三十三間堂の由来 お柳怨霊』、『西郷と益満』、『逆巻く潮』
1940年：『照る日くもる日』、『からくり蝶』、『大岡政談 通り魔』
1941年：『花嫁穏密』、『平家西へ行く』、『阿修羅姫』、『伊賀越東軍流』
1942年：『不知火乙女』

大映時代

1942年：『江戸の朝霧』
1943年：『海峡の風雲児』
1947年：『逃亡者』

関連事項

東亜キネマ
マキノ省三
嵐寛寿郎プロダクション
嵐寛寿郎
宝塚キネマ
極東映画社
天然色活動写真
* 新興キネマ

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