今日泊亜蘭

今日泊亜蘭：日本SF界の異才

今日泊亜蘭（きょうどまり あらん、1910年7月28日 - 2008年5月12日）は、日本の小説家、SF作家として知られています。本名は水島行衛（みずしま ゆきえ）。画家・小説家・漫画家の水島爾保布を父に、読売新聞の女性記者だった水島幸子を母に持ち、幼少期から多様な文化に触れて育ちました。

今日泊亜蘭という名前は、彼の数多くのペンネームの一つに過ぎません。水島多樓（みずしま たろう）、水島太郎、璃昴（りぼう）、紀尾泊世央（きおどまり ぜお）、今日泊蘭二、宇良島多浪（うらしま たろう）、園兒（えんじ）、志摩滄浪（しま そうろう）など、実に多彩な名前で作品を発表しています。その多様な活動は、彼の特異な才能と経歴を反映していると言えるでしょう。

経歴は波瀾万丈でした。東京都台東区出身の彼は、府立第五中学校（現・東京都立小石川高等学校）を中退後、上智大学付属外国語学校にも通うものの、中退。その後は「高等遊民」ともいえる生活を送った後、通訳などの職を経て、1953年に佐藤春夫の推薦で作家デビューを果たします。デビュー作「桜田門」（水島多樓名義）は『文芸日本』に掲載されました。同誌にはその後も複数の作品を発表し、1958年には「河太郎帰化」が直木賞候補にノミネートされるなど、早くから才能を認められていました。

今日泊亜蘭の活動は、文芸誌への投稿にとどまりません。1957年には、日本最初のSF同人誌「宇宙塵」に客員として参加。翌年には、渡辺啓助、矢野徹らと共にSF同人誌「おめがクラブ」を設立し、『科学小説』を発行するなど、日本のSF界の発展に大きく貢献しました。

彼の代表作である『光の塔』（1962年刊行）は、日本SFの古典として高く評価されています。戦後初のSF長編小説として、後のSF作品に多大な影響を与えました。また、1987年から1990年には77歳にして『S-Fマガジン』に長編『我が月は緑』（『光の塔』の続編）を連載するなど、旺盛な創作活動を続けました。

他の代表作には『海王星市から来た男』『アンドロボット'99』などがあります。また、30ヶ国以上の言語を操る在野の言語学者としても知られており、多方面で才能を発揮しました。

今日泊亜蘭のエピソードは尽きません。府立五中時代には英語、ドイツ語、フランス語を習得し、さらに独学でラテン語、ロシア語、ギリシャ語を学ぶなど、早熟な一面を見せています。また、架空言語「ヘレス語」を創作するなど、その言語への関心の深さがうかがえます。

彼の創作活動や人間性について、多くのSF関係者から様々な証言が残されています。辻まこととの親交、山本夏彦との交流、光瀬龍や野田昌宏との長年の友情など、多くの作家たちとの関わりが彼の創作活動に影響を与えていたことが分かります。

今日泊亜蘭は2008年5月12日、肺癌のため97歳で亡くなりました。彼の死は、日本SF界に大きな損失をもたらしましたが、彼の作品は今もなお多くの人々に読み継がれ、その独特な世界観は、現代にも強い影響を与え続けています。彼の多様な才能と波乱万丈な人生は、後世の作家たちに多くの刺激と示唆を与え続けるでしょう。

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