仕事 (物理学)

物理学における仕事：力、エネルギー、そして熱力学

物理学において、仕事とは、物体の移動を伴う力の作用によって定義される物理量です。単に力を加えるだけでは仕事とはみなされず、その力が物体の変位にどれだけ寄与したかを示す指標となります。 具体的には、力ベクトルと変位ベクトルの内積として計算されます。このため、仕事はスカラー量であり、正負の値をとります。正の仕事は物体のエネルギー増加、負の仕事はエネルギー減少を示します。

仕事の定義と性質

複数の力が物体に作用する場合、それぞれの力の仕事が個別に計算可能です。物体Aが物体Bから力を受けて移動した場合、「物体Bが物体Aに仕事をした」と表現されます。ただし、仕事には移動方向の力の成分のみが影響します。力が移動方向と直交する場合は仕事はゼロであり、力が移動方向と逆向きだと仕事は負の値をとります。これらの関係は、力と変位のベクトル内積を用いて数学的に記述されます。

仕事はエネルギーの移動を伴う現象です。仕事がなされると、系のエネルギーは増加または減少します。正の仕事は系のエネルギー減少、負の仕事はエネルギー増加に相当します。このエネルギーの移動は、熱という形態をとることもあり、熱力学では、仕事の概念を通じて内部エネルギーなどの熱力学関数が定義され、エネルギー保存則が成り立ちます。

重要な点として、力は作用・反作用の法則に従いますが、仕事は相互的ではありません。物体Bが物体Aに仕事をしても、物体Aが物体Bに必ずしも等しい大きさの逆符号の仕事を返すとは限りません。例えば、物体が床の上を移動する際、床は物体に仕事をしますが、床自体は移動しないため、物体は床に仕事をしません。

力学における仕事の例

野球の投手がボールに力を加えて投げる場合、投手はボールに正の仕事をします。この仕事はボールの運動エネルギーの増加として現れます。

一方、仕事が生じない例としては以下が挙げられます。

荷運び業者が静止した荷物を抱えている場合：荷物のエネルギーは変化せず、仕事は行われません。筋肉の活動は熱エネルギーに変換されています。
電動機の軸を固定して電流を流した場合：回転力は発生しますが、移動がないため仕事はゼロです。発生する熱はジュール熱です。
捕手がボールを受け止める場合（非弾性衝突）：ボールの運動エネルギーは、ボールやミットの変形エネルギーに変換され、仕事としては計算されません。

物体にする仕事の定式化

力 F が物体に加わり、変位 Δx が生じた場合、仕事 W は以下の式で定義されます。

W = F ⋅ Δx

これは力と変位の内積であり、スカラー量です。移動方向に対する力の成分のみが仕事に寄与します。力の大きさを F、変位の方向への力の成分を F∥、変位の大きさを Δx とすると、仕事は W = F∥Δx とも表せます。

力が時間的に変化する場合は、積分を用いて仕事の総量を求めます。

W = ∫F(t) ⋅ dx/dt dt = ∫F(s) ⋅ ds

ここで、s は物体の運動経路です。

仕事の例：単純機械、流体、ばね

単純機械（滑車、てこなど）では、仕事の原理により、同じ高さまで物体を持ち上げるための仕事量は機械の種類によらず一定です。機械は力の向きや大きさを変えるだけで、仕事量自体は変化させません。

流体（油圧システムなど）では、圧縮可能な流体を無視すれば、ピストンの仕事量はシリンダの断面積によらず一定です。パスカルの原理が適用され、圧力は一定に保たれます。

ばねの変形では、フックの法則に従い、ばねの伸び x に比例した力が働きます。ばねを x だけ伸ばす（縮める）仕事 W は以下の式で表せます。

W = (1/2)kx²

ここで k はばね定数です。この仕事はばねの弾性エネルギーとして蓄えられます。

力が一定で力の方向が運動方向と一致する場合、および異なる場合

力が一定で、その方向が運動方向と一致する場合は、仕事 W は力 F と移動距離 s の積になります。

W = Fs

例えば、質量 m の物体を高さ h まで持ち上げる仕事は W = mgh* となります。

力が一定でも、運動方向と力の向きが角度 α だけずれている場合は、仕事は

W = Fs cos α

となります。 α = 90° の場合は cos α = 0 となり、仕事はゼロになります。

熱力学における仕事

蒸気機関では、水蒸気の圧力がピストンを押し動かし、仕事をします。この仕事は熱エネルギーから取り出されたものです。

仕事が生じない例として、熱伝導があります。原子レベルでの運動エネルギーの移動はありますが、巨視的な力ではないため、熱力学における仕事の定義には含まれません。

熱力学において、系がする仕事は、気体の体積変化に伴う仕事として定義されます。閉じた系では絶対仕事、開いた系では工業仕事として区別されます。これらの概念は、エネルギー保存則の成立に不可欠です。

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