仙境異聞

仙境異聞

『仙境異聞（せんきょういぶん）』は、江戸時代後期の国学者である平田篤胤（ひらた あつたね）が著した神道書であり、全2巻で構成されています。文政5年（1822年）に刊行され、別名『寅吉物語（とらきちものがたり）』とも呼ばれています。この書は、少年寅吉（とらきち）が神仙界を訪れ、呪術を身につけたという体験談を、篤胤が聞き書きしたものです。

概要

物語の主人公である寅吉は、当時7歳でした。彼は、江戸の下谷七間町（現在の東京都台東区元浅草付近）に住んでいました。寅吉は、東叡山（寛永寺）で遊んでいたところ、杉山僧正という人物に連れられ、常陸国（現在の茨城県）の岩間山へ行きます。そこで修行をした寅吉は、幽冥界を訪れ、さらには外国も巡ったと語ったとされています。また、彼は呪術を操ることもできたため、江戸で評判になりました。この噂を聞きつけた平田篤胤は、寅吉を保護していた山崎美成のもとから、半ば強引に自分の家に連れてきて、数年間住まわせました。篤胤は、寅吉から神仙界に住む人々の生活、例えば衣食住、祭祀、修行、医療、そして呪術などについて、詳細に質問し、その内容を『仙境異聞』にまとめました。

篤胤は、以前から異境や隠れ里に強い関心を抱いていました。寅吉の話を通して、彼は幽冥という世界の存在を確信したと言われています。篤胤は、寅吉を説得し、幽冥で寅吉が出会った師仙の姿を絵師に描かせました。その絵は、後に平田家の家宝として大切に祀られました。このことから、篤胤が自身の神学体系に幽冥信仰を導入し、自らも「幽世（かくりよ）」の実在を信じていたことがうかがえます。当時の『仙境異聞』は、平田家にとって門外不出の書であり、高弟であっても閲覧を許されませんでした。

現代では、岩波文庫から『仙境異聞・勝五郎再生記聞』（子安宣邦校注）として公刊されています。2018年には、異世界転生ブームの影響で、Twitter上で話題となり、増刷されることになりました。

書誌情報

平田篤胤『仙境異聞・勝五郎再生記聞』（子安宣邦校注）岩波文庫、2000年

関連項目

廿五部秘書

外部リンク

* 『仙境異聞』 - コトバンク

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