代替血液

代替血液

代替血液、あるいは代用血液とは、手術や大怪我などで大量に出血した際に、輸血の代わりに使われる人工的に作られた血液製剤の総称です。私たちの体が必要とする血液は、単に血管の中を満たすだけでなく、赤血球による酸素運搬、白血球による免疫防御、血小板による止血・凝固など、多くの重要な機能を担っています。

現在、救急医療などで使われている「代用血漿」は、失血による血圧低下や出血性ショックに対応するため、血液全体の容量を一時的に補うことを目的としています。しかし、これは血液の容積を増やすだけで、赤血球が酸素を運ぶ能力や、血小板が止血する能力といった、血液本来の根幹的な機能を代替するものではありません。代替血液の研究開発は、これらの血液機能、特に酸素運搬能力などを人工的に再現し、献血による輸血が抱える様々な課題（献血量不足、血液型適合の必要性、感染症リスク、短い使用期限など）を解決することを目指しています。

研究開発の歴史とアプローチ

赤血球のように酸素を運ぶ能力を持つ物質を人工的に作り出し、血液中に投与するという考え方は、第二次世界大戦を契機に本格的な研究が始まりました。その主な動機は、輸血による感染症リスクを極限まで減らすこと、そして献血血液につきまとう使用期限の問題を解決することでした。

現在、実用化に向けた研究開発は進められていますが、安全性や有効性の面で広く実用化されている製剤はまだありません。主な研究アプローチは大きく二つに分けられます。

1. 非生物材料を用いるアプローチ: 「白い血液」とも呼ばれたパーフルオロケミカルの乳剤のように、生体由来ではない化学物質を用いる方法です。かつて旧ミドリ十字が開発した「フルオゾール（Fluosol）」などがこの代表例ですが、安全性や有効性の課題から広く普及するには至りませんでした。
2. ヘモグロビンを加工するアプローチ: 血液中のヘモグロビンを特殊な方法で加工し、安定化させて利用する方法です。動物や人間の血液、あるいは遺伝子組み換え技術で作られたヘモグロビンなどが研究されています。現時点では、このヘモグロビンを加工するアプローチの方が、より実用化に近いと見られています。

代替血液の原料としては、ヘモグロビンだけでなく、アルブミン、ES細胞（胚性幹細胞）、さらには使用期限切れの血液製剤などが研究されています。これらの人工製剤は、輸血を受ける患者の血液型に関わらず使用できる点が大きな利点です。特に、血液製剤由来のものは、ヘモグロビンを特殊なナノカプセルに封入することで、比較的長期間（例えば6ヶ月程度）の保存が可能になるとされています。

最新の研究動向

近年、代替血液の研究開発は着実に進展しています。

2019年には、日本の防衛医科大学校などの研究グループが、人工血液の開発に成功し、ウサギを用いた動物実験で良好な結果を得たと輸血学の専門誌で発表しました。この製剤は、常温で1年以上の長期保存が可能であり、さらに血液型を問わずに使用できるという画期的な特徴を持っていました。

さらに、2024年7月には、奈良県立医科大学附属病院が人工赤血球製剤の臨床試験を開始すると発表しました。この製剤も血液型に依存せず使用できることに加え、保存期間の長さが特に注目されています。従来の冷蔵保存で約4週間が限界とされる献血血液に対し、奈良県立医大の製剤は室温で2年間、冷蔵であれば5年間の保存が可能であると説明されています。これは、輸血用血液の供給体制や災害時の備蓄などにおいて、極めて大きなメリットをもたらす可能性があります。

代替血液の実用化は、献血への依存度を下げるだけでなく、稀な血液型の人への対応、救急現場での迅速な輸血、さらには将来的な再生医療への応用など、医療の様々な側面に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。今後のさらなる研究開発と臨床応用が期待されています。

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