令和元年8月の前線に伴う大雨

令和元年8月の前線に伴う大雨災害

2019年8月、秋雨前線の影響により、九州北部で記録的な大雨が発生しました。特に佐賀県、福岡県、長崎県を中心に甚大な被害をもたらし、観測史上1位となる雨量を各地で記録しました。この災害は、線状降水帯の発生が主な原因であり、短時間での集中豪雨が広範囲に被害を拡大させました。

災害の概要

気象状況

8月27日から29日にかけて、対馬海峡に停滞した秋雨前線が活発化し、線状降水帯を形成しました。これにより、佐賀県、福岡県、長崎県を中心に記録的な大雨となり、28日5時50分には、気象庁が大雨特別警報を発表しました。特に、佐賀県全域、福岡県筑後地方、長崎県北部で被害が大きくなりました。この特別警報は、同日午後に解除されましたが、29日には長崎県壱岐市で「50年に一度の大雨」と発表されるなど、各地で深刻な状況が続きました。

この大雨は、台風11号から変わった低気圧、フィリピン付近の台風12号、太平洋高気圧という3つの気象要因が重なり、秋雨前線に大量の湿った暖気が流れ込んだことが原因とされています。

雨量の記録

各地で記録的な雨量が観測されました。1時間雨量では、佐賀県佐賀市佐賀で110.0mm、佐賀県白石町白石で109.5mmと、観測史上1位を更新しました。24時間雨量では、長崎県平戸市平戸で434.0mm、佐賀県佐賀市佐賀で390.0mm、佐賀県白石町白石で371.0mm、佐賀県鳥栖市鳥栖で343.0mmと、いずれも観測史上1位を記録。72時間雨量では、長崎県平戸市平戸で621.0mm、佐賀県唐津市唐津で494.0mmと、記録的な大雨となりました。

被害状況

人命被害

消防庁と国土交通省の集計によると、死者4名、重傷者1名、軽傷者1名が発生しました。特に、福岡県八女市で1名、佐賀県武雄市で3名が亡くなり、武雄市では住宅内で1名、その他は車に乗車中に被害に遭われたと見られています。

住家被害

住家被害は、全壊87棟、半壊110棟、一部損壊14棟に上り、床上浸水1,645棟、床下浸水4,513棟が発生しました。また、非住家被害も11棟確認されています。

土砂災害

土砂災害も多数発生し、土石流等6件、地すべり6件、がけ崩れ159件が確認されています。

その他の被害

河川の氾濫も多発し、福岡県の巨瀬川、佐賀県の牛津川・松浦川、長崎県の江迎川などが氾濫しました。佐賀駅構内など市街地でも広範囲に冠水し、佐賀県多久市、小城市、杵島郡大町町、武雄市北方町などでは住民が一時孤立する事態となりました。また、福岡県では豪雨により河川堤防の斜面が一部崩れる被害も発生しました。

産業への被害

佐賀県杵島郡大町町では、鉄工所から大量の油が流出し、広範囲に拡散する被害が発生しました。この油流出は、日本国内最大規模と言われており、約5万リットルの焼入油が流出し、付近の水田やビニールハウスに大きな被害を与えました。この影響で農作物の出荷が絶望的となり、農業に深刻な打撃を与えました。油の回収には、自衛隊、国土交通省、佐賀県などが協力し、9月10日に終了しました。

その他、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなど商業施設の臨時休業が相次ぎました。大規模小売店舗では、3週間休業する店舗や、閉店を余儀なくされる店舗も出ました。運送業者、タクシー業者、郵便局などでも車両が浸水し、輸送に影響が出ました。農林水産業では、10月4日時点で被害総額213.5億円に上りました。

交通への影響

鉄道では、長崎、佐賀、福岡各県の在来線で運休が相次ぎました。特に、JR佐世保線、筑肥線（西唐津 - 伊万里間）が線路冠水により30日まで運休し、特急「みどり・ハウステンボス」も運休しました。長崎自動車道では、土砂崩れにより武雄北方IC - 武雄JCT - 嬉野IC間が通行止めとなり、応急修理後に対面通行となりました。

空路では、28日、29日の両日で43便が欠航しました。

ライフラインへの影響

佐賀市では、最大750世帯で断水が発生し、その他にも福岡県八女市、長崎県佐世保市、壱岐市など合計2,915世帯で断水しました。また、佐賀市、武雄市、小城市など320戸で停電が発生しました。

大町町では、洪水により油混じりの泥水が病院に流入し、一時孤立状態となりましたが、その後復旧しました。

文化財への被害

桑原家住宅（国登録有形文化財）、肥前陶器窯跡・錆谷窯跡（国史跡）、蕨野の棚田（国重要文化的景観）など、文化財にも被害が発生しました。

行政の対応

政府は、災害発生直後から官邸対策室を設置し、関係閣僚会議を開催しました。自衛隊、警察庁、消防庁、海上保安庁などの関係機関が連携し、救助活動、物資支援、情報収集などに取り組みました。また、激甚災害にも指定され、復旧・復興に向けた支援が行われました。

復旧活動

自衛隊は、災害派遣初動部隊「ファストフォース」を出動させ、救助活動、給食、給水、防疫などの支援活動を行いました。警察庁は、災害警備本部を設置し、情報収集や避難所支援を実施しました。消防庁は、緊急消防援助隊を派遣し、救助活動にあたりました。

地域社会の支援

イオン九州、日本カーシェアリング協会、武雄市商工会など、多くの団体や企業が物資提供や車両の無料貸し出しなどの支援を実施しました。また、大学や専門学校も被災受験生の検定料や授業料の免除・減免措置を行いました。義援金も多くの団体や企業、個人から寄せられ、被災地の復興を後押ししました。

その他の影響

山口県下関市のボートレース下関では、護岸が崩落する被害が発生しました。NHKでは、災害特番に切り替え、一部番組が休止となりました。

まとめ

令和元年8月の前線に伴う大雨は、九州北部に甚大な被害をもたらした大規模災害でした。観測史上1位となる記録的な雨量により、人的被害、住家被害、土砂災害、産業被害、交通への影響、ライフラインへの影響など、多岐にわたる被害が発生しました。行政機関や自衛隊、地域社会の支援により、復旧・復興が進められていますが、その爪痕は今も深く残っています。この災害は、今後の防災対策や地域社会の連携の重要性を改めて認識させる出来事となりました。

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