改暦

改暦（かいれき）とは

改暦とは、大きく分けて2つの意味があります。

1. 暦法の改暦: 従来用いていた暦法を、改良や統一を目的に改めること。
2. 宣明暦の改暦: 日本において、宣明暦の吉凶や誤差などの問題の解決を目的に行われた、暦日の調整のこと。

本稿では、暦法そのものの改暦（グレゴリオ暦の改良案を含む）と、宣明暦における暦日の調整という、2つの側面から「改暦」について解説します。

暦法の「改暦」

概要

太陰暦は月の満ち欠けに基づき、自然な暦と言えますが、季節は太陽暦に沿って巡ります。太陰太陽暦は両者の折衷ですが、正確な太陽年と朔望月の観測・予測は近年まで困難でした。経験則によるメトン周期やサロス周期などを用いても、実際の天体の動きとの不一致は避けられず、より正確な暦法への変更を目指した改暦が行われました。

ヨーロッパ

紀元前45年にローマ暦から改暦されたユリウス暦は、太陽暦として安定したため、広く採用されました。その後、改良されたグレゴリオ暦が提案され、16世紀以降のヨーロッパ勢力の世界進出に伴い、太陽暦は世界的に用いられるようになりました。

中国では、皇帝が「時を支配する」存在として位置づけられ、暦法は「国家の大典」とされていました。そのため、改暦は単なる暦法の改訂に留まらず、太陽・月・惑星の現象を数理的に扱い、天文定数や計算表を改変するまでを含んでいました。王朝交代や新皇帝の即位を機に改暦が行われ、日食・月食の予測精度や惑星の動きまでが暦に織り込まれました。改暦の成功は、宮廷の暦学者にとって立身出世の機会でもあったため、積極的に皇帝に働きかけたことも要因の一つです。

日本

日本の暦は、当初中国からの移入で対応していました。最初の暦である元嘉暦の導入時期は不明ですが、697年に儀鳳暦への最初の改暦が行われました。その後、764年に大衍暦が導入されましたが、862年に宣明暦に改暦されてからは、遣唐使の廃止や暦道の家学化により、改暦は行われなくなりました。宣明暦は800年以上にわたって使用され続けたため、実際の天体の動きとのずれが大きくなり、改暦論が起こりました。

当初は元の授時暦の導入が検討されましたが、渋川春海が地理的問題から授時暦の直接的な移入は不可であると唱え、独自の修正を加えた貞享暦を作成しました。1685年に施行された貞享暦の後、宝暦暦、寛政暦、天保暦と改暦が行われましたが、これらは全て太陰太陽暦でした。

明治維新を機に改暦論が再燃し、天保暦の精度は既にヨーロッパのグレゴリオ暦と同等以上でしたが、明治政府は1873年にグレゴリオ暦を採用しました。これは、財政状況や洋学者による太陽暦改暦論、欧米諸国との関係拡大を考慮した結果でしたが、月の満ち欠けに従って生活してきた多くの日本人に動揺を与えました。改暦直後は新暦と旧暦が併用されるなどの混乱が生じましたが、現在ではグレゴリオ暦が日本の暦法として定着しています。

グレゴリオ暦からの改暦論

現在、世界で広く使われているグレゴリオ暦ですが、以下の問題点が指摘されています。

平均太陽年とのずれ（3224年間で1日のずれ）
年始の位置が天文学や社会生活と無関係
月の大小が不安定
グレゴリオ暦と曜日の配置の関係が毎年変わる
カトリック教会を中心に決められたため、他の宗教・宗派の信者に心理的な抵抗感を持つ者がいる

これらの問題点を解消するため、グレゴリオ暦を修正・改暦する意見が古くからあり、フランス革命暦やソビエト連邦暦で試みられたものの、失敗に終わっています。

改暦案の例

閏日の再配置: 閏年の決定方法を変更する。
年始の変更: 1月1日を冬至や春分などの天文現象の発生日に変更する。
暦日の再配分: 月の大小を変更し、2月の日数を調整する。
暦日及び曜日の再配分: 余日を調整して、日付と曜日の対応を常に一致させる。
月と週の併用をやめてどちらかを廃止: 1年を52週+余日とする案、または7日を1週間とする概念を廃止する。

国際的な改暦の動きは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活発でしたが、国際連盟や国際連合での議論は合意に至らず、現在も根本的な改暦は実現していません。ネットワーク社会・グローバリズムの進展の中で、暦における「世界の一体化」も進行すると考えられており、国際社会が共有できる改暦案が成立できない限りはグレゴリオ暦からの根本的な改暦は事実上不可能であると考えられています。

宣明暦の「改暦」

概要

862年から1684年まで823年間使用された宣明暦では、暦算結果に基づいて編纂された暦に対して、月の大小や閏月の配置を意図的に変更することで、日付や干支を変えることが行われました。これを「改暦」と称しました。そのため、正規の計算方法で過去の暦日を算出しても、実際に実施された暦と異なる場合があります。

実施理由

朔旦冬至の実現及び回避
四大の回避
閏8月の回避
閏月によって発生する日数の過大を抑えるため
* その他

朔旦冬至を巡る「改暦」

朔旦冬至（さくたんとうじ）とは、冬至が11月1日になることで、暦の諸原則が上手く機能して政治が順調に推移している証拠とされ、大規模な儀式をもって祝われました。しかし、実際の太陽日とのずれから、冬至が11月1日にならない場合があり、その場合、月の大小や閏月を調整して強引に朔旦冬至を実現させました。一方、臨時朔旦冬至は不吉な例として嫌われ、回避するための改暦も行われました。

四大の回避を巡る「改暦」

太陰太陽暦では、朔望月に合わせて大の月（30日）と小の月（29日）が交互に訪れるのが原則ですが、月の動きによって大の月が4か月続くことがありました。これを異常として、月の大小の差し替えや閏月の差し替えによって回避する改暦が行われました。

閏8月を巡る「改暦」

章首の後に来る最初の「閏8月」を発生させてはならないというもので、替わりに7月に閏月が設置されました。これを退閏（たいじゅん）と称しましたが、その理由は暦道による秘伝とされ、中国由来説もありますが理由は不詳です。

その他の「改暦」

その他、1年間の日数が過大となることを避けるため、元旦と日食の重複を避けるため、暦算の誤りなど、様々な理由で改暦が行われました。宣明暦が採用された823年のうちに、80回近い改暦が行われたことになります。

応仁の乱後は殆ど行われなくなり、朝廷の権威の低下とともに、暦道を掌った勘解由小路家・土御門家の混乱、縁起・吉凶を理由として複雑な再計算を避けたい暦道側の思惑などがあったと考えられています。江戸幕府成立後、幕府による朝廷への介入が行われ、改元すら朝廷の自由に行えなくなった状況下において改暦を行うことは事実上不可能になりました。

「改暦」を巡る逸話

保元元年の例

臨時朔旦冬至を避けるための改暦が初めて行われた保元元年（1156年）の改暦は、『兵範記』・『管見記』・『押小路文書』などにその遣り取りを巡る記事が多く残されています。暦博士賀茂在憲が11月1日を冬至とする暦を奏進したのに対し、算博士・三善行康が章の最初でもないのに朔旦冬至となるのは不吉と論じました。議論は長期化し、最終的に算道側の主張が通り、後白河天皇の改暦宣旨が出されました。

天正10年の例

天正10年（1582年）には、陰陽寮が作った京暦と東国で広く使われていた三島暦で閏月が異なるという事態が発生しました。織田信長は陰陽頭の土御門久脩を安土に呼び出して論争をさせたものの決着がつかず、最終的に信長の要望は叶えられませんでした。このため、三島暦を用いていた地域では混乱が生じました。

信長が地元尾張の業者に配慮したものであるとか、朝廷を軽んじていたという解釈で片付けられる問題ではなく、京暦の閏1月は暦法の根幹である二十四節気の基本原則を破綻させてしまうものであり、朝廷・陰陽寮の権威が傷つけられることになったのでした。

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