伊勢国分寺跡

伊勢国分寺跡について

概要

伊勢国分寺跡は、三重県鈴鹿市国分町に位置する、奈良時代に建立された古代寺院の跡です。この地は、鈴鹿川左岸の段丘台地上にあり、かつては伊勢国の国分僧寺があった場所とされています。また、東側の国分町集落付近には、国分尼寺の跡も推定されています。

この場所は、古代の東海道や河曲駅家（かくえきや）の存在も推定される重要な地域でした。奈良時代中期には、伊勢国府が南西約7キロメートルの場所（現在の長者屋敷遺跡）に置かれており、当時の国府と国分寺がそれぞれ異なる郡に位置していたことがわかります。

1922年（大正11年）には、国の史跡に指定され、1988年（昭和63年）から2009年（平成21年）にかけて35回に及ぶ発掘調査が行われました。この調査によって、金堂、講堂、僧坊など、多くの主要な伽藍の遺構が発見されています。特に注目すべきは、寺域内に設けられた「院」と呼ばれる区画の存在で、これは他の国分寺にはあまり見られない特徴です。

周辺には、僧寺跡の南側に河曲郡衙（郡の役所）の跡と推定される狐塚遺跡、南東側には白鳳時代の寺院跡である南浦遺跡（大鹿廃寺跡）があります。

歴史

国分寺の創建時期は正確には不明ですが、天平13年（741年）の聖武天皇による国分寺建立の詔の頃に建てられたと考えられています。この地域を支配していた古代豪族、大鹿氏の影響が指摘されており、周辺には大鹿氏に関係する古墳が多く分布しています。

大同4年（809年）には、隣の志摩国の国分二寺の僧侶や尼僧が伊勢国分寺に移された記録があります。また、延長5年（927年）に完成した『延喜式』には、伊勢国の正税に関する規定として、国分寺の運営費用である稲4万束とともに、志摩国分寺の分の稲3千束が記載されています。

多くの国分寺は平安時代以降に衰退しましたが、伊勢国分寺のその後の詳しい状況はわかっていません。文治2年（1186年）には、源頼朝が東海道の守護人に各国惣社と国分寺の修繕を命じた記録がありますが、伊勢国での具体的な内容は不明です。

江戸時代には、寛政年間（1789～1801年）の『東海道名所図絵』に「国分寺」として記録され、宝暦年間（1751～1764年）の『三国地誌』には瓦が散在していた状況が記述されています。

1922年（大正11年）に国の史跡に指定された後、1988年から発掘調査が開始され、1995年から1997年にかけて寺域が公有化されました。1998年には、寺域に隣接して鈴鹿市考古博物館が開館し、1999年から2008年まで史跡整備のための確認調査が行われました。

伽藍

僧寺跡の寺域は、180メートル四方の広さで、築地塀で囲まれていました。主要な建物は、南から南門、中門、金堂、講堂、僧坊が一直線に並ぶ東大寺式の配置となっています（ただし、主軸はわずかに西に傾いています）。金堂の両側から回廊が出て、中門に接続しています。寺域の東側には、北東院、小院、掘立柱建物などが配置されていました。

特に、寺域内に「院」と呼ばれる区画が設けられている点が、全国の国分寺の中でも珍しい特徴です。一方、七重塔や鐘楼、経蔵といった、国分寺に建てられるはずの施設は、まだ発見されていません。

多くの遺構は、後世に基壇の深い部分まで削平を受けていますが、溝などから基壇の規模はわかります。主な遺構は以下の通りです。

金堂：本尊を祀る建物で、創建時の基壇と大改修後の基壇が見つかっています。創建時の基壇は東西30.5メートル、南北21.9メートルで、塼積や瓦積で化粧されていました。建物の詳細は不明ですが、桁行5間、梁間4間と推定されています。
講堂：経典の講義や教説を行う建物で、金堂の北22メートルに位置します。基壇は東西32.7メートル、南北20.6メートルで、塼積や瓦積で化粧されていました。建物の詳細は不明ですが、桁行7間、梁間4間と推定されています。
僧坊：僧の宿舎で、講堂の北に位置します。東西72メートル、南北9メートルですが、基壇などの詳細は不明です。講堂とは、軒廊で結ばれていました。
回廊：金堂と中門を結ぶ屋根付きの廊下で、金堂の両側から出て中門に接続します。南辺の幅は7.2メートル、東辺は6メートル、北辺は6.8メートルですが、基壇などの詳細は不明です。
中門：金堂の南に位置し、東西19.5メートル、南北11.9メートルの基壇があったと推定されますが、建物の詳細は不明です。
南門：中門の南26メートルに位置し、東西17.6メートル、南北11.2メートルと推定されます。南門の前には道路が設けられていたと考えられています。
北門：僧坊の北25mに位置し、寺域北辺において周溝が途切れている部分から、門があったと推定されています。
北東院：寺域の北東部に位置する区画で、東西64メートル、南北90メートルで、築地塀で囲まれていました。中央に食堂と見られる大型建物が検出されており、周囲には食膳具などを廃棄した土坑が密集しています。
小院：北東院の南に位置する区画で、東西45メートル、南北30メートルです。塔院であったとする説もあります。

伊勢国分尼寺跡

尼寺の跡は、僧寺の東側の国分町集落付近にあると推定されています。しかし、現在まで遺構は発見されておらず、寺域や伽藍の詳細は不明です。

国分町光福寺に残る「伊勢国分寺陳跡碑記」（1802年建立）によると、金光明寺（僧寺）を「南院」、法華寺（尼寺）を「北院」と称していたとされ、それぞれ「南院」は国分町南浦付近、「北院」は国分町集落付近に推定されていました。その後の調査で、「南院」は白鳳寺院の遺跡（大鹿廃寺跡）であることが判明しましたが、「北院」では大量の瓦が出土しており、こちらが尼寺の跡であると推測されています。

鈴鹿市加佐登町では、奈良時代中頃の3基の瓦窯跡（川原井瓦窯跡）が見つかっており、これらは伊勢国分尼寺の瓦を焼くために使用されていたと考えられています。

文化財

国の史跡
伊勢国分寺跡：指定範囲は37,180平方メートル。大正11年10月12日に指定。

現地情報

所在地：三重県鈴鹿市国分町字西高木・中高木・西浦・西谷・堂跡
関連施設：鈴鹿市考古博物館（伊勢国分寺跡からの出土品などを展示）
交通アクセス：JR関西本線河曲駅下車、徒歩約20分
周辺：
国分遺跡：伊勢国分尼寺跡の推定地
南浦遺跡（大鹿廃寺跡）：白鳳時代の寺院跡
狐塚遺跡：河曲郡衙跡
常慶山金光明院国分寺：旧名を「国分山金光明寺」とする。

脚注

[参考文献]
史跡説明板
地方自治体出版物
「伊勢国分寺跡、南浦・国分・狐塚遺跡」『三重県史 資料編 考古2』三重県、2008年
「史跡 伊勢国分寺跡」 (PDF) （伊勢国分寺跡公式パンフレット、鈴鹿市考古博物館）
「史跡伊勢国分寺跡整備基本計画」 (PDF) （鈴鹿市、2007年）
近年の発掘調査現地説明会資料（リンクは鈴鹿市考古博物館）
第30次発掘調査 (PDF) （2005年）
第31次発掘調査 (PDF) （2006年）
第35次発掘調査 (PDF) （2009年）
近年の発掘調査概要報告（リンクは鈴鹿市考古博物館）
「伊勢国分寺跡5」 (PDF) （2005年）
「伊勢国分寺跡6」 (PDF) （2006年）
「伊勢国分寺跡7」 (PDF) （2009年）
『日本歴史地名大系 24 三重県の地名』平凡社、1983年
「国分村」、「伊勢国分寺跡」
「伊勢国分寺跡」『国指定史跡ガイド』講談社。

[外部リンク]
伊勢国分寺跡 - 国指定文化財等データベース（文化庁）
伊勢国分寺跡 - 三重県教育委員会
伊勢国分寺跡 - 鈴鹿市考古博物館「鈴鹿の遺跡100選」

もう一度検索