伊勢電気鉄道デハニ231形電車

伊勢電気鉄道デハニ231形電車は、近畿日本鉄道（近鉄）名古屋線の前身の一つである伊勢電気鉄道（伊勢電）が1930年に導入した電車です。ここでは、基本設計が共通する制御車であるクハ471形についても解説します。

登場までの経緯

伊勢電気鉄道（伊勢電）は、三重県内の主要都市である四日市・津間を短絡する目的で設立されました。当初は蒸気動力の中小鉄道会社でしたが、1926年に社名を変更し電化。熊沢一衛が社長に就任すると、名古屋と伊勢への延伸を図りました。

当時、伊勢へは大阪電気軌道（大軌）の子会社である参宮急行電鉄（参急）が大阪からの新線建設を計画していました。伊勢電はそれに対抗し、津から松阪を経て伊勢の大神宮前駅に至る路線を、参急線の開業と同じ1930年12月25日に全線開業させました。

名古屋方面への延長も計画していましたが、養老電気鉄道との競願となり、一度は却下されました。しかし、揖斐川電気との交渉により桑名延長線の免許譲受に成功し、1929年1月30日に桑名までの全線を開業しました。

この路線延長に際し、高速運転を行うための優等車として製造されたのが、クハ471形とデハニ231形でした。これらは伊勢電最後の新製車両となりました。

概要

手小荷物室付制御電動車のデハニ231形と、名古屋向き制御車のクハ471形の2形式15両が製造されました。全車とも名古屋の日本車輌製造本店製です。

デハニ231形は本線直通列車用として、1930年4月と12月に以下の12両が製造されました。

デハニ231形デハニ231 - デハニ236
デハニ231形デハニ237・デハニ238
デハニ231形デハニ239・デハニ240
デハニ231形デハニ241・デハニ242

クハ471形はデハニ231形と連結して使用される便所付きの制御車として、以下の3両が製造されました。

* クハ471形クハ471 - クハ473

クハ471形の製作数が少ないのは、当時の輸送需要から単行運転の機会が多く、既存のクハ451形を改造していたためです。

車体

両形式とも、伊勢電の200番台電動車グループと共通の17m級半鋼製車体を備えます。エクステリアデザインは、先行形式であるデハニ221形を基本としています。直線基調の形態で、貫通路を備えるフラットな前面形状などが特徴です。

窓配置は、デハニ231形が2D(1)7(1)D(1)D'1、クハ471形が2D(1)8(1)D2です。デハニ231形は両運転台式、クハ471形は片運転台式であり、全室式の乗務員室には乗務員扉が設置されていません。

クハ471形には、長距離列車運行に備え、大神宮前寄り連結面側車端部に便所と洗面所が設けられています。

座席は、桑名－大神宮前間のロングラン運用に備え、客用扉間の側窓のうち、両端の各1枚を除く区画に転換クロスシートを設置したセミクロスシート構成です。

主要機器

電装品には東洋電機製造の製品を採用しています。伊勢電本線は平坦線であり、高速運転に特化した構成となっていました。

主電動機

140馬力級吊り掛け式電動機である東洋電機製造TDK-528-Cを各台車に2基ずつ計4基装架します。

制御器・台車・ブレーキ

制御器は東洋電機製造ES-517-A電動カム軸式自動加速制御器、台車は日車製D16平鋼リベット組立式イコライザー台車を採用しています。ブレーキはA動作弁によるAブレーキを採用し、応答性などの基本性能が向上しています。

運用

伊勢電時代

1930年の大神宮前延長に際し、デハニ231形とクハ471形は伊勢電の急行に投入され、桑名－大神宮前間を1時間45分で走破しました。1935年には特急「はつひ」・「かみち」の運行を開始し、同区間の所要時間を1時間25分に短縮しました。

1932年には電動車の形式称号が変更され、モハニ231形となりました。

参急時代から終戦まで

1936年に伊勢電は参急へ合併され、伊勢電本線は同社の伊勢線となりました。モハニ231形・クハ471形は、関急電・参急線の急行から普通まで広範な列車で運用されるようになりました。

戦時体制下では、クロスシートの一部が撤去され、保守もままならない状態になりました。

名古屋線特急

1947年10月には上本町駅 - 近畿日本名古屋駅間で名阪有料特急の運転が開始されました。名古屋線では関急電の製造したモ6301形を使用することになったものの、同車にはトイレが無かったため、トイレ付きのク6471形も改装して特急で使用されることになりました。

制御車化

戦後、モニ6231形は運用しにくいことから次第に疎まれるようになり、1958年にはモーター・台車など走行機器を流用して新造の6441系を増備し、名古屋線の輸送力増強に充てることになりました。モニ6231形は制御車代用とされ、その後廃車となりました。

南大阪線「かもしか」号

1960年、養老線に転じていたクニ5421形を南大阪線における有料特急「かもしか」号で使用するため、モ5820形として優等列車仕様の電動車に改造しました。しかし、1965年には16000系電車の新製投入により「かもしか」号は廃止され、モ5820形は一般車に格下げとなりました。

終焉

モ5820形はその後養老線に転じましたが、1983年に廃車され、伊勢電気鉄道以来のゆかりの地である塩浜工場で解体されました。ク6471形は1973年に廃車となるまで活躍しました。

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