伊理正夫

伊理正夫：日本の数理工学・応用数学を牽引した巨星

伊理正夫氏（1933年-2018年）は、日本の数学者、工学者として、その名を歴史に刻んだ人物です。東京大学名誉教授、同大学工学部学部長、中央大学理工学研究所所長を歴任し、数理工学、応用数学の分野において、比類なき貢献を果たしました。その専門は多岐に渡り、数値解析、線形計画法、マトロイド理論、計算幾何学など、幅広い領域で卓越した研究成果を挙げました。

学究の道の歩み

麻布高等学校卒業後、東京大学理科一類に入学。1955年に東京大学工学部応用物理学科（数理工学専修コース）を卒業、1960年には東京大学大学院数物系研究科応用物理学専門課程博士課程を修了し、工学博士の学位を取得しました。

九州大学工学部通信工学科を経て、1962年に東京大学工学部計数工学科助教授に就任。1973年には教授に昇進し、1993年までその職務に励みました。東京大学工学部学部長（1987年-1989年）、東京大学総長特別補佐（副学長）（1989年-1991年）なども務め、教育・研究機関の運営にも大きく貢献しました。1993年には東京大学名誉教授の称号を授与されています。

大学での教職以外にも、伊理氏は数多くの要職を歴任しました。日本応用数理学会会長、地理情報システム学会会長、財団法人日本測量調査技術協会会長など、その活動は多方面に渡ります。計算の品質研究部会（精度保証付き数値計算を扱う部会）の主査を務めた経験も持ち、日本の数理科学の発展に尽力しました。

1993年から2003年までは中央大学理工学部情報工学科教授、1994年から2002年までは中央大学理工学研究所長を務め、第二のキャリアにおいても指導的な役割を果たしました。

類まれな研究業績

伊理氏の研究業績は計り知れません。マトロイド理論とその応用研究は、その代表的なものです。IMT (Iri-Moriguti-Takasawa) 数値積分公式の提案、計算幾何学アルゴリズム開発と地理情報処理への応用、浮動小数点数値表現法である伊理－松井方式、線形計画法における伊理－今井法、高速自動微分法の研究など、数々の画期的な成果を残しました。これらの研究は、現代の数理工学、応用数学、そして情報科学の進歩に大きく貢献しています。

受賞歴と栄典

伊理氏の功績は、数々の賞によって認められました。松永賞、化学工学協会技術賞、電子通信学会論文賞、情報処理学会論文賞、電子情報通信学会業績賞、東レ科学技術賞など、多くの権威ある賞を受賞。1995年には紫綬褒章、2007年には瑞宝中綬章を受章し、国家からもその功績を高く評価されました。

出版物

伊理氏は、数多くの著書を著し、後進の育成にも尽力しました。「数値計算―方程式の解法」、「線形計画法」、「一般線形代数」、「線形代数汎論」などの単著に加え、共著、監修、翻訳など、幅広い出版活動を行いました。これらの著書は、現在も多くの学生、研究者にとって貴重な学習資料となっています。

結論

伊理正夫氏は、類まれな才能と旺盛な研究意欲、そして教育者としての熱意をもって、日本の数理工学・応用数学の発展に多大な貢献をしました。その功績は、現代社会における情報技術の進歩にも大きな影響を与え続けています。氏の死は、日本の学界にとって大きな損失ですが、その業績はこれからも多くの人々にインスピレーションを与え続けるでしょう。 彼の残した数々の著作や研究成果は、後世の研究者や学生にとって、貴重な遺産として継承されていくことでしょう。

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