伊達尚宗

伊達尚宗

伊達尚宗（だて ひさむね）は、日本の室町時代後期から戦国時代にかけての武将であり、陸奥国の有力大名であった伊達氏の第13代当主です。官位は従五位下、大膳大夫に任じられました。仙台藩祖として知られる伊達政宗からは数えて高祖父にあたる人物です。

尚宗は、第12代当主であった伊達成宗の嫡男として生まれました。当時の武家における慣例に従い、室町幕府の第9代将軍であった足利義尚から一字を賜り、「尚宗」と名乗ったと伝えられています。

父である成宗から家督を継承した正確な年は、残念ながら明確には分かっていません。これは、父成宗の没年自体が詳しく判明していないことに起因します。伊達氏の公式な史書などでは、成宗の死去は長享元年（1487年）とされている場合が多く、この前後で尚宗が家督を継いだものと推測されています。この時代の奥州は、応仁の乱以降の全国的な混乱に加え、各地で国人領主たちの反乱が頻発するなど、不安定な情勢が続いており、尚宗はそのような状況下で家督を継承することとなりました。

正室には、越後国の守護大名である上杉氏から女性を迎えました。これにより、遠方の有力大名との関係を築こうとしたと考えられます。正室は積翠院殿と称され、永正10年（1513年）に死去しました。その出自については諸説あり、伊達氏側の記録では越後守護上杉定実の娘とされますが、上杉氏の記録では上杉房定の娘、あるいはその弟である上杉房実の娘とする異説も存在します。出自の確定には至っていませんが、越後上杉氏との婚姻関係があったことは確かです。

尚宗の主な事績としては、延徳2年（1490年）に居城であった米沢城の北方に位置する塩野毘沙門堂を再建したことが挙げられます。これは、領内の寺社の保護・復興に努め、文化的な安定を図ろうとした姿勢を示すものと言えるでしょう。

しかし、尚宗の治世は平穏ではありませんでした。明応3年（1494年）4月には、伊達氏の領内で大規模な騒乱が発生し、尚宗は身の安全を図るため、一時的に会津の有力大名であった蘆名盛高のもとへ避難することを余儀なくされました。これは、当時の伊達氏が領内の統制に苦慮していた状況を物語る出来事です。

領国に復帰した後、尚宗は伊達氏の勢力拡大を目指した政治的な試みを行います。当時、室町幕府は将軍足利義材（後に義尹、義稙）と細川政元の対立によって混乱しており、義材は京都を追われて流浪の身となっていました。尚宗は、この足利義材を奥州に迎え入れ、これを擁護することで、伊達氏の政治的な権威を高め、東北地方における発言力、ひいては勢力を盛り上げようと画策しました。しかし、この将軍擁立の試みは成功せず、尚宗の政治的思惑は実現しませんでした。

戦乱と苦難の中で伊達氏当主としての役割を果たした尚宗は、永正11年（1514年）5月5日にこの世を去りました。享年62でした。尚宗の死後、家督は嫡男であった伊達高宗が継ぎました。高宗は家督継承から3年後の永正14年（1517年）に名を「稙宗」と改め、伊達氏の勢力を飛躍的に拡大させることになります。

系譜

父：伊達成宗（伊達氏第12代当主。1435年? - 1487年?）
母：慧厳院殿（大崎教兼の娘）
正室：積翠院殿（永正10年（1513年）没。越後上杉氏の娘とされる。上杉房定または房実の娘説あり。）
嫡男：伊達稙宗（たねむね、伊達氏第14代当主。1488年 - 1565年。初名：高宗）
次男：留守景宗（るす かげむね。1492年 - 1554年。留守郡宗の養子となり留守氏を継承）
生母不詳の子女
男子：久松丸（早世。久松丸の菩提を弔うため、尚宗が昌傳庵を開基したと伝わる。）
女子：最上義定の継室

伊達尚宗は、父の時代から続く不安定な状況下で家督を継ぎ、領国を維持・経営しながら、中央の権威を利用した勢力伸張を試みるなど、戦国乱世を生き抜いた武将の一人と言えます。その事績は、次代の稙宗による伊達氏飛躍の礎となったのです。

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