上杉房実

上杉房実

上杉房実（うえすぎ ふさざね）は、室町時代中期から戦国時代にかけて活躍した武将であり、優れた文化人としての側面も持つ人物です。上条房実（じょうじょう ふさざね）という名でも知られています。父は上杉清方とされています。

系譜に関しては、「天文上杉・長尾系図」などの史料において、刈羽郡上条の地を治めたとされる上条上杉家を継いだとの記述が見られます。しかしながら、これを確証するに足る動かぬ証拠は現在のところ見つかっておらず、その家督継承の事実は明確には確認されていません。

房実の兄に当たる越後国守護・上杉房定（うえすぎ ふささだ）は、室町幕府から厚い信任を得て、東国における要人として重要な役割を果たしました。この房定の治世において、越後の地は文化的に大きな発展を遂げます。都（京）から多くの高名な文化人や公家たちが越後へと招かれ、あるいは訪れ、彼らとの交流を通じて越後の文化的水準は大いに高められたのです。このような兄の時代背景は、房実が文化活動に傾倒する上で、豊かな土壌となったと言えるでしょう。

房実自身もまた、武人としての傍ら、連歌に深く親しんでいました。特に長享2年（1488年）には、越後を訪れた当時の著名な禅僧であり連歌師でもあった万里集九（ばんり しゅうく）を自身の邸宅に招き、共に詩歌の会を催したことが記録されています。これは、房実が単なる愛好家にとどまらず、当代一流の文化人とも交流を持つほどの実力や地位を有していたことを示しています。

さらに、連歌作品は明応4年（1495年）に成立した勅撰集に準じる連歌集である『新撰菟玖波集（しんせんつくばしゅう）』に収められています。この連歌集には、「玄澄法師（げんちょうほうし）」という法師名義で、六句の房実の歌が入集しています。武将でありながら仏門にも通じ、連歌師としての名も持っていた可能性を示唆しており、その多才ぶりが窺えます。

連歌のみならず、書道においても房実は優れた才能を発揮した能書家でした。書流としては、尊応流（そんのうりゅう）や二楽流（にがくりゅう）といった系統の流れを汲んでいたと伝えられています。彼の書道の腕前やその名声は、『筆跡流儀系図』、『流儀集』、『古筆流儀別』といった、当時の書道の系譜や流派に関する重要な文献にも記されています。これらの史料に名が挙げられていることからも、房実が書道の世界においても一定の評価を得ていたことが分かります。

上杉房実は、激動の室町時代後期から戦国時代という武力による争いが絶えない時代にあって、武将としての役割を担いつつも、連歌や書道といった文芸にも深く通じた文化人でした。兄である守護房定の時代に花開いた越後の文化の中で、彼もまたその一翼を担い、交流や作品を通じて、当時の文化の発展に貢献した人物と言えるでしょう。武と文、その両面に秀でた房実の存在は、戦国時代の武将像に奥行きを与えるものと言えます。

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