上杉房定

上杉房定は、室町時代中期から戦国時代にかけて活動した守護大名です。越後国および信濃国の守護を務め、越後上杉家の第6代当主として知られています。15世紀後半のおよそ46年間という長期にわたり越後を統治し、関東で発生した享徳の乱や長享の乱といった戦乱に関与する過程で、守護による領国支配体制を確立しました。

生涯

越後守護への道

房定は永享3年（1431年）、上条上杉家の上杉清方の子として誕生しました。宝徳元年（1449年）2月、従兄であり越後守護であった上杉房朝が急逝した際、房朝の側近であった長尾頼景らの支持を得て後継者となりました。宝徳2年（1450年）12月、京から越後へ下向した房定は、頼景の伯父にあたる守護代長尾邦景・実景父子を討伐します。邦景は自害し、実景は信濃へ逃れました。この出来事は、揚北の国人である中条氏によって「一国之動揺」と記録されています。邦景父子は室町幕府と鎌倉府間の政治的緊張を利用して勢力を伸ばしましたが、鎌倉府の滅滅や嘉吉の乱による将軍足利義教の暗殺によって立場が弱体化し、京都で勢いを盛り返した守護勢力に対抗できませんでした。

府内での権力掌握に成功した房定は、京に戻ることなく自ら越後の統治に乗り出しました。宝徳3年（1451年）3月には、下郡の国人への威圧を示すかのように弥彦神社へ参拝しました。同年5月には、信濃でなおも復帰を試みる実景への協力を禁じる御教書が越後の国人たちに発給されました。

関東の動乱への関与

将軍義教の死後、幕府内では鎌倉府再建の動きが進み、文安4年（1447年）には万寿王丸（後の足利成氏）の関東帰還が実現します。『鎌倉大草紙』には、当時の越後守護上杉房定（実際には房朝の可能性が高い）が、前鎌倉公方足利持氏の遺子永寿王丸の関東帰還を幕府に長年嘆願し実現させたとの記述が見られます。

成氏と上杉氏の対立は早くも表面化し、享徳3年（1454年）12月、成氏が房定の従兄である山内上杉家関東管領の上杉憲忠を暗殺したことが、享徳の乱の勃発につながりました。幕府から成氏追討を命じられた房定は、征旗を受けて上野国で憲忠の跡を継いだ弟の上杉房顕勢と合流します。康正元年（1455年）には上野三宮原や穂積原で成氏軍に勝利し下野国足利まで進出しましたが、年内には撤退しました。古河城に逃れて「古河公方」と称した成氏に対し、上杉方も五十子に陣を構え（五十子陣）、房定は以後16年もの間関東に滞在して戦いを続けました。長禄3年（1459年）には大規模な攻勢をかけるも苦戦を強いられ、戦況は膠着状態に陥ります。寛正4年（1464年）には信濃の高梨政高を攻めましたが、成氏方が高梨氏を支援していたため苦戦し、将軍足利義政から信濃守護小笠原光康に対し房定への協力が命じられる状況でした。

山内上杉家の継承と都鄙和睦

文正元年（1466年）2月、上杉房顕が嫡子なく死去しました。長尾景信は房定の子を後継にと推挙しましたが、山内上杉家内部の反対もあり、房定は当初ためらいました。しかし、8代将軍足利義政の強い後押しもあり、次男の龍若（後の顕定）を養子として送り、関東管領に就任させることを承諾しました。これにより、房定は上杉諸家の中で重きをなし、越後上杉家は実質的に享徳の乱における上杉方の中心的存在となりました。

文明元年（1469年）に越後の留守を預かっていた守護代長尾頼景が死去し、子の重景が後を継ぎましたが、越後国内情勢に不安を感じた房定は、文明3年（1471年）までに嫡男の定昌を上野白井城に残し、自身は越後へ帰還しました。その後も幕府は房定に関東出陣を再三要請しましたが、房定は越後・信濃の不安を理由に応じませんでした。長尾景春の乱などを経て窮地に陥った両上杉氏は、文明10年（1478年）に成氏と一時的な和解を結びます。そして、文明12年（1480年）頃から始まった本格的な和平交渉において、房定は決定的な役割を果たし、文明14年（1482年）に「都鄙和睦」として知られる講和を成立させ、約30年に及んだ享徳の乱を終結へと導きました。

京との交流と文化振興

享徳の乱への関与や和睦交渉を通じて、房定と京都との関係は深まり、将軍家や在京公家との交流が活発になりました。文明18年（1486年）3月には、戦乱鎮静の功績により、守護としては異例の高い位階である従四位下相模守に任じられました。この高位を得るためには、多額の費用を投じ、公家や幕府要人への献金を行ったと伝えられています。また、幕府を通じて李氏朝鮮から高麗版大蔵経を取り寄せ、越後安国寺に納めるなど、文化的な事業も行っています。

応仁の乱で荒廃した京都からは、飛鳥井雅康や聖護院道興といった一流の文化人が越後へ下向するようになりました。連歌師の宗祇や歌人の尭恵、太田道灌の死後に扇谷上杉家を離れた万里集九なども越後を訪れています。房定はこれらの文化人を手厚く保護したため、越後の文化発展に大きく貢献しました。当時の越後府中や房定と側近たちの様子は、『梅花無尽蔵』などの記録に描かれています。

越後支配の完成と晩年

房定が越後を統治した時代、国内は長尾実景の失脚以降、大きな混乱もなく比較的安定していました。信濃の半国守護も兼任し、文明15年（1483年）から19年（1487年）にかけて実施した検地では、検地帳上の石高を大幅に増加させるなど、国内領主に対する統制を強化しました。揚北衆の本庄房長は二度反乱を起こしましたが、守護代長尾能景や伊達氏らの協力により鎮圧されました。長享元年（1487年）には出家し、常泰と号しました。

延徳3年（1491年）、管領細川政元と歌人冷泉為広が越後を訪問しました。政元の訪問の表向きの理由は奥州での修験道の修行でしたが、近年では、10代将軍足利義材の廃立計画について、房定・顕定父子の協力を得るためであったとする説も提唱されています。

明応3年（1494年）10月17日、房定は64歳で死去しました。家督は末子の房能が継承しました。房定の約46年間の統治は、越後上杉家による越後支配の基礎を固め、守護領国制の完成に貢献した時代として評価されています。

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