伊達綱宗

伊達綱宗：享楽と芸術の狭間で生きた仙台藩主

伊達綱宗は、江戸時代前期から中期にかけて仙台藩を治めた大名です。伊達氏の19代当主であり、3代藩主として名を刻みました。従四位下・左近衛権少将に叙任され、陸奥守や美作守などの官職も歴任しています。

綱宗は、二代藩主伊達忠宗の六男として誕生しました。母は側室の貝姫であり、後西天皇の母方の叔母に当たることから、綱宗と後西天皇は従兄弟の関係にありました。幼名は巳之介。生母を早くに亡くした綱宗は、忠宗の正室である振姫の養子となりました。兄の夭折により、若くして嫡男の座を継ぎ、家督相続の道を歩み始めます。承応3年（1654年）、元服し、将軍家綱より偏諱を賜り、綱宗と名乗るようになりました。同時に従四位下・美作守に任ぜられています。万治元年（1658年）、父・忠宗の死去に伴い、幕府より家督相続を許され、仙台藩の三代藩主となりました。

しかし、綱宗は藩主としての在任期間が短く、わずか21歳で隠居を余儀なくされました。これは「綱宗隠居事件」として知られる出来事であり、酒色に溺れ、藩政を顧みない綱宗の無策な振る舞い、叔父である伊達宗勝の政治的介入、家臣団内の対立など、様々な要因が重なり合った結果でした。幕府老中・酒井忠清を介して、伊達家と縁戚関係にある大名らによる綱宗への進言が行われましたが、綱宗は耳を貸さず、結果として隠居を命じられました。隠居後は、綱宗の2歳の長男・亀千代（後の伊達綱村）が家督を継承することとなりました。隠居の直後には、綱宗の近臣らが処罰されるという厳しい措置が取られています。この事件に関する記録は、伊達家の正史『治家記録』や『徳川実紀』などに残されていますが、詳細な経緯については諸説あります。

隠居後は品川の大井屋敷に居住し、50年以上にわたる余生を送りました。歴史上では酒色に溺れた暗愚な藩主として描かれることが多い綱宗ですが、隠居後は芸術に傾倒し、優れた才能を発揮した側面も持ち合わせていました。狩野探幽に絵画を学び、和歌、書、蒔絵、刀剣など、幅広い分野で才能を発揮し、多くの作品を残しています。仙台市博物館には、彼の作品である「絹本著色霊昭女・牡丹・芙蓉図」や「花鳥図屏風」などが現存しています。

正徳元年（1711年）、江戸で72歳で亡くなりました。法名は見性院殿雄山全威大居士。遺体は仙台に運ばれ、祖父・政宗、父・忠宗が眠る経ヶ峯に葬られました。しかし、第二次世界大戦中の空襲で墓所は焼失してしまいました。昭和56年（1981年）からの再建調査では、彼の身長や血液型、死因などが判明し、副葬品から芸術への深い愛情がうかがえます。現在、瑞鳳殿の資料館には、遺骨を参考に作成された復元模型が展示されています。

綱宗の血筋は、三男の伊達宗贇を通じて宇和島伊達家に受け継がれていきました。綱宗の生涯は、享楽と芸術、そして政治的駆け引きが複雑に絡み合った、波乱に満ちたものであったと言えるでしょう。彼の人生は、歴史の表舞台から遠ざかった後も、様々な憶測や解釈を生み出し続け、現代においても研究の対象となっています。伊達騒動との関連性も議論されており、歴史の謎めいた一面を垣間見ることができます。

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