酒井忠清

酒井忠清：江戸幕府を支えた譜代大名

酒井忠清は、江戸時代前期に活躍した譜代大名であり、江戸幕府の老中、そして大老を務めた人物です。三河以来の名門である酒井氏の嫡流として生まれ、徳川家康、秀忠、家光の三代に仕えた酒井忠世の孫にあたります。4代将軍徳川家綱の治世において、幕府の要職を歴任し、その権勢を誇りました。

生涯

出生から老中時代

寛永元年（1624年）に、酒井忠行の長男として江戸の酒井家屋敷で生まれました。幼少期に関する詳しい記録は残っていませんが、祖父である忠世の屋敷に将軍家光や大御所秀忠が訪れた際に、幼いながらも献上品を贈るなど、徳川家との関わりが深かったことが窺えます。

寛永13年（1636年）には、祖父と父が相次いで亡くなり、翌年、上野厩橋藩10万石を相続しました。その後、奏者番として幕府に出仕し、武家故実を習得。殿中儀礼において重要な役割を担いました。

寛永18年（1641年）には、家光の嫡子である家綱が誕生し、忠清は家光付きの家臣として仕えました。その後、松平定綱の娘と結婚し、長男を授かるも、妻は早世しています。

家光の死後、家綱が将軍に就任すると、忠清は引き続き奏者番を務め、その後、老中に昇進しました。老中首座として、松平信綱、松平乗寿、阿部忠秋らと共に幕政を担いました。

大老職就任から晩年

承応2年（1653年）には老中に就任し、老中首座として幕政を主導しました。寛文6年（1666年）には、大老に就任。保科正之や阿部忠秋らが没すると、その権力はさらに集中し、久世広之、土屋数直、板倉重矩らと共に、将軍家綱を補佐しました。

忠清は大老として、殉死禁止令や、伊達騒動、越後騒動といった重要な事件の裁定に関わりました。

延宝8年（1680年）、上総久留里2万石を加増され、15万石となりましたが、同年、将軍家綱が死去。後を継いだ綱吉から病気療養を命じられ、大老職を解任されました。

翌延宝9年（1681年）には隠居し、その年の5月に56歳で亡くなりました。遺体は龍海院に葬られています。

人物像

下馬将軍

忠清は、大老就任後、「左様せい様」と呼ばれた将軍家綱のもとで、権勢を振るったと評されています。その権威は、江戸城大手門下馬札付近に屋敷があったことと重ねられ、「下馬将軍」と俗称されました。また、伊達騒動を題材にした創作物では、悪役として描かれることもありました。

土佐・宇和島領地争い裁定

万治2年（1659年）には、土佐藩と宇和島藩の領地争いにおいて、評定所の裁定を覆し、家光時代の先例を尊重した裁定を下しました。この裁定は、忠清の権力を示す事例として知られています。

宮将軍擁立説

家綱の危篤時には、鎌倉時代の例に倣い、有栖川宮幸仁親王を将軍に擁立しようとしたという説があります。しかし、この説は近年、失脚後の風説であるという指摘もされています。

その他

忠清は非常に早口な人物であり、落書や随筆には「早言の頭」「早口なる人」と記されています。また、家庭においては律儀な愛妻家であったとも推察されています。

綱吉が将軍に就任すると、大老を解任され、越後騒動の再審が進められる中、急死したため、その死を巡っては様々な憶測を呼んでいます。また、『中村雑記』では、忠清が小柄で笑い上戸である一方、稲葉正則が大柄で厳格であったと対比して記されています。

『談海』には忠清が「大海」と称され、和柔寛厚な人物であったと評されています。

逸話

『葛藤別紙』には、忠清が上洛した際に、物乞いを救うための小屋を見て、「真の仁政とは、物乞いがいない世を作ることではないか」と語ったという逸話が収録されています。この逸話は忠清に対する評価が必ずしも否定的ではなかったことを示唆しています。

一方、『土芥寇讎記』には、「女色を好み、公家の娘を数多呼び寄せた」と記されており、忠清の人物像に対する評価は様々です。

家系

正室：梅光院（松平定綱の娘）
長女：亀姫（藤堂高久室）
長男：忠明（忠挙）
側室：清岸院（姉小路公景の娘）
三女：千姫
四女：松姫（松平頼常室）
五女：長姫（水野勝種室）
六女：紀伊姫（中川久通室）
七女：奈阿姫（加藤泰恒室）
三男：忠寛
八女：彦姫（松平信庸室）
九女：與志姫
十女：石姫
四男：万千代
十一女：助姫
その他（妾腹）
次男：某（大宝院）
次女：久姫

まとめ

酒井忠清は、江戸幕府の要職を歴任し、その権勢を誇った一方で、様々な評価が残る人物です。下馬将軍と呼ばれた権力者としての側面や、土佐・宇和島領地争いの裁定、宮将軍擁立説など、その行動は後世に様々な議論を呼んでいます。

参考文献

福田千鶴『酒井忠清』吉川弘文館、2000年。
山本博文『徳川将軍と天皇』中央公論新社、2004年。

関連項目

文治政治
増上寺五重塔

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