佐々木修 (指揮者)

佐々木 修

日本の指揮者、佐々木修は、1955年1月15日に青森県弘前市で生を受けました。父は弘前大学名誉教授で疫学者であった佐々木直亮氏です。

武蔵野音楽大学を卒業後、音楽家としての道を歩み始めます。1977年にはオーストリア政府給費留学生としてザルツブルクに渡り、モーツァルテウム大学の指揮科で研鑽を積みました。この間、指揮界の巨匠であるヘルベルト・フォン・カラヤンやセルジュ・チェリビダッケ、そしてゲルハルト・ヴィンベルガーといった名指揮者たちに師事し、薫陶を受けました。

海外留学中には、1979年にベルリンで開催された国際カラヤン指揮者コンクールで入賞を果たし、その才能を認められます。1981年にはモーツァルテウム大学指揮科を最も優れた成績で卒業しました。卒業後は同大学の管弦楽団で常任指揮者を務めるとともに、指揮科の講師として後進の指導にもあたります。1982年にはザルツブルク国際モーツァルト週間に招かれ、東洋人指揮者として初めてこの由緒ある音楽祭の指揮台に立ち、翌1983年にも引き続き出演しました。1983年には国際モーツァルテウム財団からベルンハルト・パウムガルトナーメダルを授与される栄誉に浴するなど、海外での輝かしいキャリアを築きました。

帰国後は、日本各地のオーケストラや合唱団の指揮台に立ち、精力的に活動を展開します。音楽史の研究にも取り組み、2006年には「おもちゃの交響曲」の真の作曲者としてエトムント・アンゲラーを日本で初めて紹介し、この功績は小泉純一郎元総理の著書にも引用されました。オペラ指揮にも力を入れ、2009年から2012年まであらかわバイロイト、2013年からは日本橋オペラで常任指揮者を務めています。

佐々木氏は指揮活動に加えて、編曲者、編集者、校正者としても活動しています。2015年からは、インターネット上の楽譜ライブラリーであるペトルッチ楽譜ライブラリーに、室内楽版オペラやボーカルスコアの批判校正版などを提供し、その専門性を活かしています。特に注目されるのは、自身が編曲したワーグナーの歌劇「トリスタンとイゾルデ」の小オーケストラ版です。これが2020年にドイツのハノーファー国立歌劇場で上演され、同歌劇場がこの年のオペラアワードでヨーロッパ最高のオペラハウスに選出されるという出来事がありました。

また、埋もれたオペラの再発見や、既存の作品を独自に再構築する取り組みも行っています。2021年には、長崎を舞台にしたフランスオペラ「お菊さん」を発見し、自ら日本語訳詞を制作してその日本初演を指揮しました。この公演は音楽専門誌でも紹介されています。同年、日本橋出身の世界的女優・川上貞奴の生誕150年を記念し、歌劇「貞奴姫」を構成・指揮しました。これは貞奴の生涯をヴェルディの「椿姫」の物語と重ね合わせたもので、鹿鳴館、パリ万博、帝国女優養成所といった史実を基にした舞台設定と、貞奴と福沢桃介の関係を「椿姫」のヴィオレッタ、アルフレード、ジェルモンになぞらえるという、ユニークな解釈を取り入れた作品となりました。

佐々木氏は指揮台を離れても多方面で才能を発揮しています。1980年代にはNHK-FMやFM802などで音楽番組のパーソナリティーを務め、その知的な語り口で親しまれました。1990年から1996年にかけては、人気テレビ番組『タモリの音楽は世界だ!』の音楽監修を担当し、番組のクオリティ向上に貢献しました。文化交流にも熱心で、1998年には日本グルジア文化協会を設立し、ジョージア（旧グルジア）文化の紹介や在日ジョージア人の支援を行いました（この協会は2007年のジョージア大使館開設に伴い解散）。1999年から2009年まで大阪シンフォニカー（現在の大阪交響楽団）のミュージック・プランナー、ITプランナーも務めています。

さらに、モバイルコンテンツ開発においても先駆的な役割を果たしました。1999年には『モバイル音楽辞典』を企画・制作し、ギガチョイスで入賞。特に、2000年にビジネスモデルを構築し、株式会社エムティーアイと共同開発した女性の健康管理サイト『ル～ナ』は、携帯電話IP接続サービスによる健康管理サイトとして世界初であり、auの公式メニューとして大きな成功を収めました。『ル～ナ』は後に『ルナルナ★女性の医学』と改称され、2011年まで企画・制作・顧問として関与し、モバイルプロジェクト・アワードで優秀賞を受賞するなど、社会的に広く認知されるサービスとなりました。

2004年には株式会社マエストロを設立し、代表取締役社長に就任。2007年からはピアニスト長井充氏のプロデュースを手がけ、9枚のCD制作やコンサート企画を実現しました。長井氏の演奏動画をYouTubeで紹介したところ、クラシックピアニストとしては異例の再生回数1,000万回以上を記録するという成果を上げています。

新型コロナウイルスの影響で歌劇「お菊さん」の日本初演が延期となった2020年には、日本橋オペラとして東京都や文化庁の助成を受け、歌劇「お菊さん」に関連する3本の動画を企画・編集し、YouTubeで配信するなど、困難な状況下でも文化活動を継続するための取り組みを行いました。

興味深いエピソード

佐々木氏の人生にはいくつかの興味深いエピソードがあります。幼少期の1960年代後半には、後に「車椅子の物理学者」として知られるスティーヴン・ホーキング博士の母と妹が弘前の佐々木家に滞在したことがあり、音楽を通じた交流があったといいます。不思議な縁として、ホーキング博士の死去から約1ヶ月後、博士の出身地であるオックスフォードで、佐々木氏が編曲したワーグナー「トリスタンとイゾルデ」が上演されています。また、ザルツブルク国際モーツァルト週間で初めて指揮した際のピアノソリスト、マルクス・ヒンターホイザー氏（現在はザルツブルク音楽祭総裁）とは、以来現在に至るまで交流が続いているとのことです。2008年には、ロシアによるジョージア侵攻に際し、東京で行われた平和行進の日本側呼び掛け人の一人となるなど、社会的な出来事にも関与しました。2021年に上演された歌劇「お菊さん」は、Beyond2020文化プログラムとしても位置づけられましたが、舞台上演としては1929年にケベックで上演されて以来、92年ぶりの世界蘇演として大きな注目を集めました。歌劇「貞奴姫」の構成は、史実に忠実な場面設定に加え、「椿姫」の登場人物に重ね合わせるという大胆な発想を取り入れた、佐々木氏ならではのユニークな試みでした。

指揮者としてだけでなく、多角的な視点と行動力で音楽、メディア、技術、文化交流など幅広い分野で活躍する佐々木修氏の活動は、現代における芸術家の多様なあり方を示しています。

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