佐伯好郎

佐伯好郎：言語学者から景教研究の第一人者、そして広島の復興に貢献した生涯

佐伯好郎(さえき よしろう、1871年-1965年)は、20世紀前半の日本を代表する多才な学者でした。言語学、法学、歴史学など、実に幅広い分野を研究し、教育に携わった人物です。中でも、ネストリウス派キリスト教（景教）の研究においては世界的な権威として認められ、「景教博士」の称号を得ました。さらに、日ユ同祖論の初期の提唱者としても知られています。その多様な経歴と業績、そして戦後の広島における活動を通して、佐伯好郎という人物像に迫ってみましょう。

多彩な才能と教育者としての歩み

広島県廿日市市に生まれた佐伯は、幼少期から「神童」と呼ばれ、明治天皇の巡幸に際しては献上役を務めるほどの秀才でした。東京専門学校（現・早稲田大学）卒業後、アメリカやカナダに留学し、トロント大学で言語学を専攻。帰国後は母校や和仏法律学校などで英語教師として教鞭をとり、正宗白鳥ら多くの学生を育成しました。高等師範学校（現・筑波大学）講師、独立女学校教頭などを経て、東京高等工業学校（現・東京工業大学）、明治大学法学部でも教鞭をとり、幅広い世代に教育を施しました。 その指導を受けた学生の中には、のちに日本の政治・経済界で活躍する鳩山一郎や石黒忠篤なども含まれていました。

景教研究への没頭と国際的な評価

英語教育者としての活躍と並行して、佐伯は日清戦争をきっかけに景教の研究に没頭します。1911年には『景教碑文研究』を出版、以後も精力的に研究を続けました。1931年には東方文化学院東京研究所（戦後東京大学東洋文化研究所に吸収）の研究員となり、北京で貴重なシリア語の詩編の碑石を発見するなど、大きな成果を上げました。1935年には『景教の研究』、1943年には中国キリスト教史研究の集大成ともいえる大著『支那基督教の研究』全5巻を刊行。1941年には東京帝国大学より文学博士号を授与されました。これらの業績により、佐伯は日本のみならず国際的にも高い評価を得て、景教研究の第一人者としての地位を確立しました。彼の研究は英語でも出版され、世界中の研究者に影響を与えました。

日ユ同祖論と歴史観

佐伯は、日本人とユダヤ人が同祖であるとする日ユ同祖論の最初期の論者としても知られています。彼の主張は、歴史学界では必ずしも広く受け入れられていませんでしたが、現代でも日ユ同祖論を支持する人々にとっては重要な文献として扱われています。しかし、晩年には、弟子に同祖論が単なる功利的な「企画」であることを明かし、その真意に疑問を投げかける発言も残しています。この発言は、佐伯好郎という人物の複雑な思想の一面を垣間見せています。

戦後の広島における活動と晩年

戦後は、76歳という高齢ながら故郷・廿日市の町長に就任し、戦災や原爆で荒廃した広島の復興に尽力しました。また、「日本文化平和協会」の副会長として、広島市の再建にも携わっています。晩年まで精力的な活動を続け、1962年には早稲田大学名誉博士号を授与されました。1965年、94歳で生涯を終えました。

まとめ

佐伯好郎は、言語学者、法学者、歴史学者、そして教育者として、多岐にわたる分野で卓越した業績を残しました。彼の研究は、現代においても高い評価を受け続けています。一方で、日ユ同祖論への関与や、その真意にまつわる発言など、複雑な側面も持ち合わせていた人物でした。彼の波乱に満ちた生涯は、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。彼の多様な活動と業績は、20世紀の日本における学問の発展と、戦後の復興という大きな歴史的流れの中で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。 そして、彼の研究は、現代においても様々な議論を巻き起こし、再評価され続けています。彼の功績は、今後も歴史研究において重要な位置を占め続けることでしょう。

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