佐藤誠三郎

佐藤誠三郎：保守派論客としての生涯と学問的足跡

佐藤誠三郎(1932-1999)は、日本の政治学界に多大な影響を与えた人物です。東京大学名誉教授として、数々の講義や研究活動を行い、保守派の論客として、また大平正芳、中曽根康弘両政権のブレーンとして活躍しました。彼の生涯と業績を多角的に見ていきましょう。

若き日の葛藤と転向

東京生まれの佐藤は、東京都立日比谷高等学校時代、江藤淳や坂上弘といった著名な同級生・先輩と交流する中で、マルクス主義の影響を受け日本共産党に入党します。東京大学文学部国史学科卒業後、伊藤隆や渡辺昭夫といった同世代の友人らと共に学生運動に身を投じますが、次第にマルクス主義への幻滅を深めていきます。この転機は、丸山眞男の著作との出会いがきっかけだったと言われています。その後、東京大学大学院文学研究科の入学試験に失敗したものの、翌年、東京大学法学部政治学科へ学士入学を果たします。

学者としての歩みと指導

1960年に東京大学法学部政治学科を卒業した佐藤は、岡義武教授の下で学士助手として日本政治外交史の研究を始めます。その後、立教大学法学部助教授を経て、1967年に東京大学教養学部助教授、1977年には教授に昇進。教養学部では政治学入門などの講義やゼミを主宰し、北岡伸一、下斗米伸夫、舛添要一、三谷博、御厨貴、岡田克也ら、後の政界・学界で活躍する多くの弟子を育成しました。

佐藤は明治維新研究から出発し、日本の近代化を包括的に研究。村上泰亮、公文俊平との共著『文明としてのイエ社会』は彼の代表的な業績の一つです。東大教養学部における「ストライキ」に対する保守派教授としての対応や、1970年代初めのハーバード大学留学などを通して、国内外の学界に広く知られるようになりました。ジョージ・ブッシュ(43代)大統領の対日政策に貢献したマイケル・グリーンも佐藤の知己の一人です。

晩年の活動と多様な役割

1992年に東京大学を定年退職後、慶應義塾大学総合政策学部に移籍。比較政党論、安全保障論、国際紛争論などの講義を担当しました。中曽根康弘、西部邁、村上泰亮らとの小研究会での活動は『共同研究「冷戦以後」』という成果に結びつきました。また、英国チョーサー・カレッジ・カンタベリーの初代学長、秀明大学客員教授などを歴任。晩年には、埼玉大学大学院政策科学研究科教授、政策研究大学院大学副学長も務めました。

政界においても、大平正芳、中曽根康弘両政権でブレーンとして活躍。日本政治学会理事、財団法人平和安全保障研究所理事、日米諮問委員会委員、外務省南西アジア・フォーラム座長、防衛戦略研究会議議長などを歴任し、中曽根康弘が設立した世界平和研究所所長代理も務めました。

思想と主張

佐藤の思想は保守主義に基づいていましたが、単なる反動的な保守ではなく、歴史と現実を深く見据えた、独自の視点を持っていました。安全保障問題、PKO問題、憲法改正問題など、様々な問題に対して、鋭い分析と主張を展開しました。特に、安全保障問題については、東大で初めて安全保障論の講義を行った人物としても知られています。

教育者としての佐藤

佐藤は優れた教育者でもありました。彼の厳格な学問的姿勢と、同時に、学生一人ひとりの可能性を信じる温かい人柄は多くの学生に影響を与えました。岡崎久彦元駐タイ大使による弔辞は、その教育者としての偉大さを端的に示しています。

死後

1999年、肝臓疾患のため67歳で逝去。彼の死は、日本政治学界に大きな損失をもたらしました。しかし、彼の残した著作や、指導した多くの弟子たちは、これからも日本の政治思想界に大きな影響を与え続けるでしょう。彼の業績は、今後も日本の政治思想史において重要な位置を占め続けることは間違いありません。

もう一度検索