岡崎久彦

岡崎久彦：外交官から評論家へ、日本の安全保障と歴史認識を論じた生涯

岡崎久彦（1930-2014）は、日本の外交官、評論家として知られる人物です。従三位に叙せられ、サウジアラビアとタイ王国で特命全権大使を歴任、外務省情報調査局長も務めました。その祖父は、明治時代の政治家・陸奥宗光の従弟にあたる岡崎邦輔です。

華麗なる外交官キャリアと情報分析の専門家

関東州大連生まれの岡崎は、東京大学法学部在学中に外交官試験に合格。大学を中退し外務省に入省しました。在フランス大使館、在米国大使館、在韓国大使館など、数々の在外公館に勤務。本省では国際連合局をはじめ、調査企画部や情報調査局といった情報部門の要職を歴任しました。彼のキャリアは、英語研修でケンブリッジ大学に留学した経験を皮切りに、国際政治、情報分析の専門家としての道を歩んだと言えるでしょう。駐タイ大使を経て1992年に外務省を退官後も、外交評論家として精力的に活動を続けました。

論客としての顔と多様な著作活動

外務省在職中から執筆活動を続け、外務省の論客として知られていました。1977年には長坂覚のペンネームで『隣の国で考えたこと』を著し、日本エッセイストクラブ賞を受賞。その後も『国家と情報』でサントリー学芸賞を受賞するなど、数々の著書を発表し続けました。彼の著作は、国際情勢分析、戦略論、歴史認識といった幅広いテーマを網羅しています。中でも、アングロサクソン諸国との協調が日本の国益とアジアの平和に繋がるという主張は、彼の思想の中核をなすものです。また、気功にも造詣が深く、自ら体験に基づいた書籍も出版しています。

歴史認識と政治活動

岡崎は、歴史認識においても独自の立場を有していました。祖父の系譜を継ぐ政治家としての背景もあり、戦前デモクラシーや近現代史に関する著作も多く発表しました。彼は『新しい歴史教科書をつくる会』賛同者であり、日本教育再生機構顧問も務めるなど、政治活動にも積極的に関与しました。

イラク戦争開戦時には、米国の立場を支持する声明に名を連ね、小泉政権の対応を支持。歴史を客観的に捉えることの重要性を強調し、単なる善悪論に陥ることの危険性を指摘しました。また、靖国神社や遊就館の展示内容に関して、反米的な記述の修正を訴えるなど、歴史認識問題への強い関心を示し、産経新聞「正論」欄への寄稿などを通じて、積極的に自身の意見を発信していました。特に遊就館の展示修正については、アメリカ下院国際関係委員会からも注目され、議論を巻き起こしました。

「富田メモ」や慰安婦問題への見解

「富田メモ」については、その信憑性を否定。昭和天皇の言動や当時の社会情勢を根拠に、メモの不自然さを指摘しました。慰安婦問題については、売春婦であったことは事実だが、性奴隷や性的搾取という主張には異を唱え、歴史事実委員会の反論広告にも賛同しました。ただし、慰安婦制度が女性の尊厳を傷つけたことについては謝罪すべきとの見解も示しており、彼の歴史認識の複雑さを示しています。

国際政治と日本の安全保障

岡崎は、国際政治においては、常に日本の安全保障を重視した発言を繰り返しました。日米同盟の重要性を強調し、戦略的思考の必要性を訴えました。彼の戦略論は、日本の置かれた客観的な状況を踏まえ、日本国民の安全と繁栄を確保するためのものです。その思想は、多くの著作や発言に反映されており、日本の外交・安全保障政策を考える上で重要な視点を提供しています。

晩年と死後

2012年には瑞宝重光章を受章。同年には安倍晋三首相を求める会発起人の一人となりました。2014年10月26日、84歳で死去。産経新聞は一面でその訃報を伝えました。没後も、彼の著作は国際政治、戦略論、歴史認識を研究する上で重要な資料として、多くの人に読まれ続けています。彼の遺著『国際情勢判断・半世紀』には安倍晋三元首相が序文を寄稿していることからも、その影響力の大きさが伺えます。

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