村上泰亮

村上泰亮：理論経済学者としての生涯と業績

村上泰亮(1931-1993)は、20世紀後半の日本の経済学界に多大な影響を与えた理論経済学者です。東京大学を拠点に活躍し、国際日本文化研究センターや国際大学教授も歴任しました。その学問的貢献は、社会選択理論から経済体制論、そして現代日本の社会構造分析まで多岐に渡り、国内外で高い評価を得ています。

生い立ちと学問的キャリア

1931年東京に生まれ、教育学者であった父・村上俊亮の影響を受け、学究の道を歩みます。東京大学教養学部を卒業後、同大学経済学部において助教授、そして教授に昇進。1961年には東京大学より経済学博士号を取得し、博士論文『近代経済学の構造』を発表しました。

東大教授在籍中には、1988年に発生した「東大駒場騒動」において、大学側の閉鎖的な体質を批判し、西部邁氏に続いて辞職という決断を下しました。この行動は、彼の自由な知性と、学問に対する強い倫理観を象徴する出来事と言えるでしょう。その後、国際日本文化研究センターと国際大学で教授職を務め、研究活動を続けました。

研究内容と主要業績

村上の研究は、大きく分けて三つの段階に分けられます。

まず、1960年代は理論経済学、特に社会選択理論に焦点を当てました。その成果は『Econometrica』を始めとする著名な国際学術誌に掲載され、世界的な注目を集めました。

1970年代には研究対象を経済体制へと転換し、1973年には論文「病める先進国」で吉野作造賞を受賞しました。この論文は、高度経済成長期の日本の経済構造における問題点を鋭く指摘し、大きな反響を呼びました。

1980年代以降は、現代日本の社会構造の分析に力を入れるようになりました。佐藤誠三郎、公文俊平との共著『文明としてのイエ社会』(1980年)では、日本の歴史を独自の視点から考察し、尾高賞を受賞しました。一方で、この著作は左派からの批判も招き、学術的な議論を巻き起こしました。また、同時期には筑井甚吉氏との共著『Turnpike Optimality in Input-Output Systems』で日経経済図書文化賞を受賞するなど、多方面で活躍しました。

特に注目すべきは「新中間大衆」論です。「社会階層と社会移動全国調査（SSM調査）」を基に、現代日本では従来の階級構造が溶解し、中間層意識を持つ広範な社会層が出現したと主張しました。この概念は、現代日本の社会構造を理解する上で重要な視座を提供しました。さらに『反古典の政治経済学』においては、政府による産業保護政策の有効性を古典派経済学とは異なる視点から論じ、「開発主義」論を展開しました。

著作と論壇活動

村上は、単著として『経済成長』『産業社会の病理』『新中間大衆の時代』『反古典の政治経済学』などを発表しました。これらの著作は、今日でも日本の経済学や社会学の分野において重要な参考文献として参照されています。また、英文著作も多数出版しており、国際的な学術交流にも貢献しました。

さらに、『中央公論』などの論壇誌で精力的に評論活動を行い、佐藤誠三郎氏らと共に中曽根康弘政権のブレーントラストとしても活躍しました。その活動は、学問的な知見を政策決定に反映させることの重要性を示すものです。

まとめ

村上泰亮は、理論経済学を基盤としながらも、現代日本の社会構造や経済政策に関する独自の分析を展開し、多大な影響を与えました。その学問的業績は、今日においても高く評価され、日本の経済学、社会学の発展に多大な貢献をしたと言えるでしょう。彼の生涯と業績は、未来の研究者たちにとって貴重な示唆を与え続けることでしょう。

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