佐賀潜

佐賀潜：法曹界から文壇へ羽ばたいた異色の作家

佐賀潜（さが せん、本名：松下幸徳）は、日本の小説家、推理作家として知られる人物です。1909年東京に生まれ、中央大学法学部卒業後、司法試験に合格。検察官として約10年間キャリアを積んだ後、弁護士へと転身しました。検事時代には、長崎刑務所での死刑執行に立ち会った経験も持ち、その経験は後年の作品にも影響を与えたと考えられます。

弁護士としては、保全経済会事件や東洋精糖株買い占め事件といった大事件にも関与し、児玉誉士夫らとも関係を持つなど、華やかな経歴を歩みました。作家小山いと子の短編小説「執行猶予」が直木賞を受賞したことがきっかけで、自身も小説の執筆を始めます。1959年、短編集『ある殺意』で作家デビューを果たしました。

弁護士としての経験と知識を活かし、本格的な推理小説を次々と発表。特に1962年には『華やかな死体』で第8回江戸川乱歩賞を受賞し、人気作家としての地位を確立しました。その後も、弁護士を主人公とした作品や、法律を分かりやすく解説した入門書を数多く発表。光文社カッパビジネスシリーズから刊行された『民法入門』『刑法入門』などは、1968年の年間ベストセラー上位を独占するほどのヒットを記録。1969年には、これらの入門書を原作とするテレビアニメ『六法やぶれクン』も放映されました。

佐賀潜の活躍は小説や法律入門書に留まりませんでした。テレビ番組『モーニングショー』のレギュラーコーナー「女の学校」の校長を務めるなど、メディアにも積極的に関わっています。また、三島由紀夫の『葉隠入門』のカバーには推薦の辞を寄せており、多岐川恭、佐野洋、星新一、水上勉ら著名な作家たちとも親交を深めていました。「他殺クラブ」の幹事や、大宅壮一が創設したノンフィクションクラブのメンバーとしても活動していたようです。

多様な分野で才能を発揮した佐賀潜は、1970年胃癌のため61歳で亡くなりました。その著作数は膨大で、長編小説、短編集、法律入門書など多岐に渡り、その作品群は現在も多くの読者から支持されています。息子の松下温氏は慶應義塾大学理工学部教授であり、弟の松下紀久雄氏は漫画家として活躍したほか、「佐賀蒼」の筆名で推理小説を執筆していたことでも知られています。

佐賀潜の生涯は、法曹界と文壇という異なる世界を縦横無尽に活躍した、稀有な存在であったと言えるでしょう。彼の作品は、法の知識と人間社会への深い洞察を融合させた、独特の魅力に溢れています。彼の残した膨大な作品群は、これからも多くの人々に読み継がれていくことでしょう。

主な作品

長編小説：『第三の殺人』『むらさきの女』『華やかな死体』『黒の記憶』など多数
短編集：『ある殺意』『ある疑惑』など
法律入門書：『民法入門』『刑法入門』『商法入門』など多数

受賞歴

第8回江戸川乱歩賞（『華やかな死体』）

関連人物

小山いと子：作家。佐賀潜の作品に影響を与えたとされる「執行猶予」の著者。
三島由紀夫：作家の佐賀潜の『葉隠入門』に推薦の辞を寄せている。
児玉誉士夫：佐賀潜が弁護を担当した保全経済会事件などに関わった人物。
松下温：佐賀潜の息子。慶應義塾大学理工学部教授。
* 松下紀久雄：佐賀潜の弟。漫画家、日曜大工研究家、「佐賀蒼」の筆名で推理小説家としても活動。

佐賀潜は、その多彩な人生と業績から、これからも多くの研究者や読者にとって、魅力的な存在であり続けるでしょう。

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