作州絣

作州絣（さくしゅうがすり）

作州絣は、現在の岡山県津山市周辺、かつての美作国苫田郡・久米郡にあたる地域で古くから継承されてきた独特の絣織物です。素朴な風合いと伝統的な技法に、現代的なデザインを取り入れた民俗織物として知られています。

歴史

この地域には、明確な年代は不明ながらも、倭文村や錦織など、高級絹織物が古くから生産されていました。その後、綿花の栽培が普及するにつれて、綿織物が織られるようになり、庶民の日用品、特に着物として盛んに作られるようになりました。当初は紺色や縞模様の木綿布が主流で、絣織物は比較的少なかったようです。明治時代の中頃になると、近隣の倉吉絣から絣の染色や織りの技術が伝わり、絣織物の生産が増加しました。しかし、これらの織物は主に自家用として織られており、販売を目的としたものではなかったため、相当な量が生産されていたと推測されますが、正確な記録は残っていません。

時代が進み、交通網の発達により他地域の様々な衣料品が流入するようになると、自家生産の必要性が薄れ、作州地方の絣技術は次第に衰退の一途をたどりました。わずかに技術を伝える者が残るのみとなりました。第二次世界大戦後、津山市の産業復興を目指す取り組みの中で、1951年に岡山県工業試験場の美作分場（後に津山分場）が設立されました。この振興品目として、かつて盛んに織られていた絣に再び光が当てられ、1953年から絣織物の研究が本格的にスタートしました。わずかに残存していた技術を復元し、量産体制を整え、「作州絣」という名を冠して市場への出荷が開始されました。

1956年度には、分場で試作された製品が東京市場に出荷されると、予想以上の好評を博し、これが契機となって作州絣の生産は活況を呈するようになります。最盛期は1955年から1958年頃で、織元は12軒にまで増え、手織りと動力織機を合わせて年間約3万反から5万反もの量が生産される規模となりました。しかし、同時期に発展していた久留米絣、備後絣、伊予絣といった他の主要な絣産地との競争が激化し、次第に転業する業者が続出し、生産量は再び減少傾向となりました。1962年には、杉原博氏が経営する「大一織物」一軒を残すのみとなります。こうした厳しい状況の中、杉原博氏による手織りの作州絣は、その高い技術と芸術性が評価され、1981年に岡山県郷土伝統的工芸品に指定されました。1997年に杉原博氏が亡くなられた後も、その妻である茂子氏が織り続けました。

しかし、2001年に茂子氏も逝去され、杉原家と縁の深かった日名川家に残された反物の販売が委託されることになります。日名川茂美氏は、販売を担うにあたり、絣に関する十分な知識なくしては責任ある仕事はできないと考え、大一織物に保管されていた貴重な資料や、岡山県工業技術センターの資料を紐解き、また他の絣織物産地を訪ね歩くなどして、綿生地や絣織りに関する知識を深く学びました。2007年からは、鳥取短期大学にある「絣美術館」の館長である吉田公之介氏に4年間にわたり師事し、専門的な技術と知識を習得しました。こうした探求と研鑽を経て、日名川茂美氏は手織りの「作州絣」大一織物の後継者となることを目指しました。2012年7月11日には杉原家の親族から正式に後継者として認められ、同年9月4日には岡山県郷土伝統的工芸品である手織り作州絣の認定後継者として公的に認められました。これにより、作州絣の伝統が再び継承され、未来へと繋がることになったのです。

日名川茂美氏は織元として作州絣工房を設立する一方、2012年8月には作州絣保存会を立ち上げ、さらに2014年3月16日には津山市西今町に作州絣工芸館を開設するなど、作州絣の保存、継承、普及に精力的に取り組んでいます。

特徴

作州絣の特徴は、そのデザインと技法にあります。

柄の基本: 絣が誕生した当初の姿である白と紺の組み合わせを基調としています。これは、絣本来の素朴で温かみのある風合いを大切にするためです。
技法: 伝統的な手法に従い、手織り、特に足踏織機を用いた手仕事によって丹念に織り上げられます。
デザイン: 伝統的な柄や技法を踏襲しつつ、「地色」や「図柄」に近代的な感覚を取り入れています。これにより、現代の人々にも普段着として親しまれる、素朴さの中にも新しさを感じさせる民俗織物として生み出されています。
評価: その独特の「図柄」や確かな「技術」は高く評価されており、日本の絣織物の中でも優れたものの一つとして位置づけられています。

その他

なお、作州絣工芸館は、改修工事のため2023年4月1日から2024年4月末まで休館の予定です。

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