信州観光ホテル

信州観光ホテル

信州観光ホテル（しんしゅうかんこうホテル）は、長野県千曲市上山田温泉に位置していた歴史ある温泉ホテルです。1951年（昭和26年）に創業し、上山田温泉の発展と共に歩みましたが、1997年（平成9年）に破産により閉業。その後は長らく廃墟としてその姿を残していましたが、2022年（令和4年）頃に解体が進み、現在は基礎部分を残すのみとなっています。

1964年当時の姿

1964年（昭和39年）に発行された『全国著名旅館大鑑』には、当時の信州観光ホテルの詳細な情報が掲載されています。本館と別館があり、それぞれ異なる経営者が記されていました。

本館

経営者: 北村甚兵衛
所在地: 更級郡上山田町大字上山田三四〇八（現在の千曲市上山田温泉1丁目にあたります）
交通: 信越本線戸倉駅より徒歩約20分、バス・タクシーで約5分。篠ノ井線姨捨駅からは徒歩約1時間、バスで約20分、タクシーで約15分。
客室: 和室76室、洋室6室。
広間: 210畳、70畳、55畳といった大規模なものを含んでいました。
離れ: 1棟。
収容客数: 個人客340名、団体客400名に対応可能でした。
料金: 標準的な宿泊料金は1500円、最高額は3000円、最低額は1200円でした。団体料金は1200円から2000円の間で設定されていました。
浴室: 広々とした大展望風呂を備え、男女別の風呂が8つ、家族風呂が4つありました。
泉質効用: 稀硫黄泉で、神経痛、皮膚病、創傷に効果があるとされていました。
自慢料理: 鯉、川魚、松茸、洋食、山菜料理など、地元の食材を活かした料理が提供されていました。
設備: 娯楽設備として、ホール、バー、撞球（ビリヤード）、映写室、釣り堀、ゴルフ練習所など、多様な施設を有していました。
シーズン・オフ: 1月、7月、8月、12月がオフシーズンとされていました。
所属団体: 国観連、日観連、公旅連に加盟していました。

別館

経営者: 宮本キミ
所在地: 更級郡上山田町大字上山田三四八一
交通: 本館と同様のアクセスでした。
客室: 和室19室、洋室3室。
広間: 60畳、21畳。
収容客数: 個人客100名、団体客120名。
料金: 標準2000円、最高7000円、最低1500円でした。団体料金は個別の相談に応じていました。
浴室: 男女それぞれに大風呂が1つずつあり、家族風呂が2つ、客室付きのバスが2つありました。
泉質効用: 稀硫黄泉でした。
自慢料理: 鯉、川魚、松茸、洋食に加え、ワラビ料理が自慢とされていました。
シーズン・オフ: 1月、2月、7月、8月がオフシーズンでした。
所属団体: 国観連、日観連、公旅連に加盟していました。

歴史

上山田温泉は、第二次世界大戦後の1949年（昭和24年）に長野県で開催された善光寺御開帳と平和博覧会を機に活気づきました。信州観光ホテルは、この好機を捉え、善光寺参りの湯治客を主なターゲットとして1951年（昭和26年）に創業しました。当初は小規模な木造3階建ての建物でしたが、地域の発展や高度経済成長の波に乗り、度重なる増改築を重ねて規模を拡大していきました。

最終的には400人収容可能な客室、350人収容できる宴会場、コンベンションホールなどを備えた大規模なホテルへと成長しました。ホテルは温泉街の高台、公園地に近い場所に位置し、玄関前には広大な池が設けられ、その周囲には植栽、噴水、人造滝などが配され、豊かな景観を創り出していました。

ホテル経営はバブル経済期に入った1986年（昭和61年）4月期に絶頂期を迎え、年間売上高は9億2800万円を記録しました。しかし、このピーク以降、売上は伸び悩み、1992年（平成4年）には下降線をたどり始めます。加えて、これまでの増築に要した巨額の借入金が経営を圧迫し、年間5000万円を超える赤字が常態化し、債務超過に陥りました。

経営悪化を受け、1996年（平成8年）、信州観光ホテルは負債総額約16億5000万円を抱え、長野地方裁判所に商法に基づく整理申請を行いました。このニュースは大きな波紋を呼び、予約約5000件以上がキャンセルされる事態となりました。裁判所の管理下で営業を続けながら再建を目指す計画でしたが、残念ながら再建は頓挫しました。1997年（平成9年）8月、長野地裁はホテルに破産を宣告し、同日付で営業は完全に停止され、正社員33名とパート従業員21名が即日解雇されました。

閉業後と解体

破産後、信州観光ホテルは解体費用が莫大であることや、敷地の地形的なリスクなどから新たな買い手が見つからず、長年にわたり廃墟として放置されることとなりました。旧信州観光ホテル跡地は、2011年（平成23年）から2013年（平成25年）にかけて長野県滞納整理機構へ移管され、公売にかけられましたが、入札者は現れませんでした。しかし、2018年（平成30年）3月に群馬県の業者が土地建物を取得し、その後解体が進められました。2024年現在、建物本体の解体はほぼ完了し、基礎部分が残されている状態です。

役員構成（参考資料より）

『帝国銀行・会社要録 第43版』（1962年）および『東商信用録 中部版 昭和57年版』（1982年）によると、当時の主な役員は以下の通りです。

1962年時点

代表取締役: 北村甚兵衛
取締役: 宮本光儀、石井勲、吉原忠良、高野二郎、田中重彌、宇都宮利春、小山茂樹千、青木佐太郎、青木神木、北原松太郎、北原重雄
監査役: 横地治郎、田村磨磋夫、宮本安長、宮本信定

1982年時点

会長: 北村甚兵衛
社長: 宮本光儀
副社長: 小山茂樹千
常務: 宮本豊穂
取締役: 宮本左平司、瀬市一清、宮本寛丈、高野二郎、田中重禄、田村磨磋夫、前沢一、浅田武雄他3名
* 監査役: 4名

評価と廃墟としての側面

1982年版の『東商信用録 中部版』では、信州観光ホテルは格付け「B」と評価されており、「近時利用客の伸悩み、償却負担の増加等で収益力は落ちた。当温泉の代表的ホテルの一社で知名度もあり、まず平調推移は可能」と評されていました。経営悪化が始まる数年前の時点では、既に収益力の低下が指摘されつつも、温泉地の代表的なホテルとして一定の地位を保っていると見られていたことが伺えます。

閉業後は廃墟となり、その巨大な建物は一部の愛好家の間で知られる存在となりました。特に、度重なる増築によって内部が複雑化していたことから、『消えゆく日本の廃墟』などの書籍では「増築の末の迷路化もここに極まれり！」と表現されるような、凄まじい立体迷宮として紹介されました。廃墟探訪の観点からは、「非常に魅力的な迷宮物件」と高く評価され、2007年出版の『ニッポンの廃墟』における「廃墟格付けランキング BEST100」では、東日本で第22位にランクインするなど、廃墟愛好家の間では名の知られたスポットでした。

長年の放置期間を経て、多くの物語を秘めた建物は姿を消しつつありますが、信州観光ホテルは上山田温泉の歴史の一ページとして記憶されています。

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