信陵君

信陵君：魏を救った戦国時代の公子

信陵君（しんりょうくん、生年不詳 - 紀元前244年）は、中国の戦国時代、魏の昭王の子として生まれました。諱は無忌。彼は、戦国四君の一人として知られ、秦の勢力拡大に苦しむ魏を救うために奔走しました。

食客を愛した公子

信陵君は、多くの食客を抱えていました。その数は3000人を超えたと言われています。彼は身分や出自に関わらず、優れた才能を持つ人々を積極的に受け入れました。その中には、後に前漢の功臣となる張耳も含まれていました。

ある時、安釐王（信陵君の兄）が趙との国境からの烽火に慌てふためく中、信陵君は冷静に趙王の狩りであると見抜きました。彼は食客を通じて趙国内に情報網を張り巡らせており、正確な情報を把握していたのです。しかし、この一件以来、安釐王は信陵君の力を恐れ、彼を国政から遠ざけるようになりました。

信陵君は、門番の侯嬴が賢者であると聞き、彼を食客に迎えようとしました。侯嬴は高齢を理由に断りましたが、信陵君は後日、侯嬴を宴席に招待します。侯嬴は宴席に遅れて参加し、信陵君の馬車に遠慮なく乗り込み、さらに途中で肉屋の朱亥と長々と世間話をするなど、無礼な振る舞いをしました。しかし、信陵君は不快な顔を一切見せず、侯嬴を待ち続けました。この出来事は人々の間で評判となり、信陵君の名声は大いに高まりました。

趙への援軍

紀元前258年、秦が趙の首都邯鄲を包囲すると、魏は趙への援軍を派遣しようとしました。しかし、秦の脅しを受けた安釐王は、援軍を国境に留め置きました。信陵君は、趙が滅べば次は魏が危ないと考え、安釐王に趙への援軍を訴えましたが、聞き入れられませんでした。そこで、彼は侯嬴の策を用いて、王の寝室から軍の指揮権を示す割符を盗み出し、さらに朱亥に晋鄙将軍を殺害させ、軍の指揮権を奪取しました。

信陵君は、兵士の中から親子や兄弟で従軍している者、一人っ子などを帰郷させ、残った精鋭を率いて秦軍に立ち向かいました。そして、見事に秦軍を打ち破り、趙を救ったのです。趙は信陵君を救国の英雄として歓待し、領土を献上しようとしましたが、信陵君は固辞しました。

帰国と失脚

紀元前248年、秦の度重なる侵攻に苦しむ魏は、信陵君に帰国を要請しました。当初、信陵君は疑念を抱き帰国を拒んでいましたが、毛公と薛公の諫言を受け、ついに帰国を決意します。安釐王は信陵君を上将軍に任命し、信陵君は諸国の援軍を得て秦軍を破りました。しかし、秦は信陵君が王位を奪おうとしているという噂を流し、安釐王は再び信陵君を疑い始めました。失意のうちに酒に溺れた信陵君は、紀元前244年に亡くなりました。

死後の魏

信陵君の死後、魏は秦の侵攻を防ぐことができず、紀元前225年に滅亡しました。しかし、信陵君の名声は後世にまで語り継がれ、前漢の劉邦は、大梁を通るたびに信陵君の墓を参拝したと言われています。

信陵君は、その知略と勇気、そして人々を惹きつける魅力によって、魏を救った英雄でした。しかし、王の疑念によって失脚し、志半ばで亡くなった彼の生涯は、私たちに権力者の猜疑心がいかに国を滅ぼすかという教訓を与えてくれます。

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