倉澤清忠

倉澤清忠（くらさわきよただ）

倉澤清忠（1917年 - 2003年）は、東京都出身の旧日本陸軍の軍人です。第一東京市立中学校（現在の東京都立九段高等学校）を卒業後、陸軍士官学校航空分校に進み、航空将校となりました。最終階級は陸軍少佐です。

軍歴

1934年4月：陸軍士官学校入学。
1935年10月：士官学校予科修了後、立川の飛行第5連隊に仮入隊。
1938年6月：陸軍士官学校航空分校卒業。少尉に任官し、航空将校となる。その後、飛行第5連隊、飛行第65戦隊に配属。12月には中尉に昇進。
1939年10月：陸軍航空士官学校の教官に就任。
1941年3月：大尉に昇進。
1942年12月：陸軍大学校に入校。
1944年3月：少佐に昇進。5月、陸軍大学校を卒業し、鉾田陸軍飛行学校研究部に配属。12月には第6航空軍参謀となる。
1945年7月：鉾田の第26飛行団参謀に。

人物

倉澤は、陸軍士官学校で航空兵科に転科し、最初の卒業生の一人となりました。浜松飛行学校では軽爆撃機の操縦を習得し、その操縦技術は高く評価され、紀元二千六百年記念観兵式では昭和天皇の前で編隊飛行を披露したほどでした。

1942年に陸軍大学校に進学しますが、1944年5月に東條英機首相兼陸軍大臣の指示により、航空所属の者は早期卒業となり、鉾田陸軍飛行学校研究部に配属されます。ここでは、対艦船攻撃手段として「跳飛爆撃」の研究を命じられます。

跳飛爆撃の研究

海軍航空隊とは異なり、対艦攻撃手段が乏しかった陸軍航空隊は、航空機による魚雷攻撃と並び、跳飛爆撃を有力な手段として研究していました。倉澤は、横須賀海軍航空隊の訓練を見学した際、海軍の高度な技術に圧倒され、陸軍の訓練が初歩的な段階であることを痛感しました。そこで、跳飛爆撃の研究を特攻作戦に転用することを提案し、福島尚道大尉と共に意見書をまとめ、参謀本部に提出しました。

別府湾で行われた訓練では、陸軍の軽爆撃機では海軍機のような低空飛行が困難であり、大型爆弾の搭載も難しいことが判明しました。この結果、技術的に未熟でも実施可能な特攻作戦へとシフトしていくことになります。

知覧基地での事故

1944年9月、倉澤は徳之島での訓練を視察後、知覧基地を離陸直後にエンジンが停止し墜落。頭蓋骨骨折の重傷を負い、一時は危篤状態となりましたが、奇跡的に生還。しかし、この事故の後遺症で、生涯激しい頭痛に苦しむことになります。左目の視力も極端に低下し、パイロットとしての活動は不可能となりましたが、同期の航空士官が多数戦死していたため、現役に留まることとなります。しかし、後遺症によるヒステリーから周囲と衝突することが多く、常態的な飲酒をするようにもなりました。

第6航空軍参謀

1944年末、倉澤は第6航空軍参謀に抜擢されます。第6航空軍は、連合軍迎撃のために編成された航空軍で、司令官は倉澤の士官学校時代の校長であった菅原道大中将でした。倉澤は編成参謀として、航空機や搭乗員の配備交渉に奔走しましたが、後遺症の頭痛から周囲に厳しく当たることも多く、煙たがられる存在でした。

アメリカ軍が沖縄に迫る中、第6航空軍は特攻作戦を本格化させます。倉澤は、帰還した特攻隊員を収容する振武寮の運営にも携わることになります。

振武寮での特攻隊員への対応

振武寮では、特攻から帰還した隊員への精神再教育が行われました。倉澤は、特に再出撃を拒否した隊員に対しては厳しくあたり、竹刀で殴打したり、自決を迫ることもありました。しかし、全ての隊員に対して厳しかったわけではなく、中には手厚く扱われた隊員もいたようです。また、特攻隊員と女子社員のお茶会を企画するなど、柔軟な一面も見せています。ただし、そのお茶会の後、隊員が上官に暴力を振るう事件が起きた際には、逆に叱責されるなど、部隊内での立場は複雑でした。

振武寮は福岡大空襲で一部が焼失し、終戦とともにその役割を終えました。倉澤は、1945年7月には鉾田教導飛行師団に転属となり、本土決戦に備えた部隊編成や訓練、飛行場整備に尽力しました。

戦後

終戦後、倉澤は一橋大学で経済学を学び、印刷会社の社長となりました。航空関係の活動には関与しましたが、特攻については多くを語ることはありませんでした。しかし、作家の林えいだいからの取材には応じ、当時の状況や自身の心情を語っています。その中で、特攻隊員に対して厳しくあたったことについて、自身の責任を認めつつも、当時の状況から仕方なかったという気持ちも吐露しています。また、遺族からの報復を恐れて、護身用の拳銃と軍刀を長年手放せなかったことも明かしています。取材の最後には「これで私も戦後の区切りがついた」と語り、その数日後に死去しました。

倉澤清忠は、太平洋戦争という激動の時代を生き、特攻作戦に深く関わった人物です。その行動は賛否両論ありますが、戦争の悲惨さを伝える上で重要な人物であると言えるでしょう。

参考文献

伊藤慎二「福岡市中央区薬院の戦争遺跡：陸軍振武寮とその周辺」
デニス・ウォーナー『ドキュメント神風下』
大貫健一郎、渡辺考『特攻隊振武寮証言:帰還兵は地獄を見た』
生田惇『別冊1億人の昭和史　特別攻撃隊　日本の戦史別巻4「陸軍特別攻撃隊史」』
押尾一彦『特別攻撃隊の記録陸軍編』
加藤拓「沖縄陸軍特攻における「生」への一考察」
佐藤早苗『特攻の町・知覧最前線基地を彩った日本人の生と死』
高木俊朗『知覧』
高木俊朗『特攻基地知覧』
高木俊朗『陸軍特別攻撃隊上巻』
高木俊朗『陸軍特別攻撃隊下巻』
高木俊朗『陸軍特別攻撃隊1』
高木俊朗『陸軍特別攻撃隊2』
高木俊朗『陸軍特別攻撃隊3』
土井勤『太平洋戦争ドキュメンタリー〈第16巻〉還ってきた特攻隊』
土井勤『九九双軽空戦記―ある軽爆戦隊長の手記』
シュミット村木眞寿美『もう、神風は吹かない「特攻」の半世紀を追って』
林えいだい『陸軍特攻・振武寮生還者の収容施設』
島田昌征『雲の果て遙か: 特攻出撃・そして生還』
栗原俊雄『特攻―戦争と日本人』
宇垣纏『戦藻録』後編
安延多計夫『南溟の果てに神風特別攻撃隊かく戦えり』
安延多計夫『あヽ神風特攻隊むくわれざる青春への鎮魂』
特攻隊戦没者慰霊顕彰会編　『会報　特攻』
靖国神社編『英霊の言乃葉（1）』
陸軍航空士官学校史刊行会（代表：白川元春）編『陸軍航空士官学校』

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